〜だいご湯へ入湯、受け入れと実現まで〜
お風呂好きなご利用者A氏が10数年前に、杖をついて歩かれていた頃、「だいご湯」を好んで行かれていたそうです。家の最寄りの銭湯でなく、わざわざ少し遠くでも、道中、よろけながら何度も転びながらでも「だいご湯」へ歩いて行かれ、通りすがりの人に助けてもらう事もあったそうです。
そこまでして行かれていたという、本人が拘ってきた選択を、この度また実現する事が出来ました。
今はご自身の足で立つ事が出来ず、意思表示もわずかに出せる声と表情でお答え頂く程ですが、かつてのお話を伺うと、受け入れてくれる銭湯ならどこでも良いのでなく、やはり「だいご湯」がいいという結論に至りました。
お風呂屋の構造上、番頭さんは物理的に無理ではないかと初めは懸念されておられました。しかし、「お風呂が大好き」という事を一番理解されている奥様と、「A氏が大切にしてきた事への協力をしたい」という職員によるA氏の想いの代弁が伝わり、番頭さんが「何も手伝いが出来ないけど、どうぞ。」と入湯を受け入れてくださいました。
どうぞ、とは言ってくださったものの、当日番頭さんの不安はまだ続いておられました。
一方、現地に到着したA氏はお風呂屋ののれんを見るや目が釘付けになっておられ、馴染みの場所を思い出されたかのようでした。風呂へは職員も裸になって一緒に入り、隣の女湯では奥様も入られ、壁越しに会話しながら感動の入湯となりました。
湯から上がり、心地よさそうにA氏は眠気でウトウトされ、奥様は「死ぬ前にもう一度は連れて来たかった。それが出来て良かった。」と、番頭さんは「また、ぜひどうぞ。」とのことでした。
体調面の配慮と身体的な動作への配慮など、介護者としてはある程度の経験と入念な確認のもとでA氏は入湯できると判断をすることが出来ますが、普段自分の足で歩くことが出来ない方が大衆浴場で入湯される姿を見掛けることはありません。しかしその場にいらした他のお客様も何の違和感もなく接してくださり、A氏も職員も客として入湯することが出来ました。番頭さんのお人柄やお客さんの雰囲気も含めて、A氏はこの「だいご湯」がお好きだったのかもしれません。
到着するやいなや、のれんに目が釘付けになられます
久しぶりに入れただいご湯、皆さん嬉しくて
心地よく眠気が出ます
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