『小規模多機能ケアの可能性』
今まで連載してきた『まちづくりとしての小規模多機能ケア』ですが、この度はその総括のお話をさせて頂きます。
地域密着型サービスの運営目的を一言で言い表せば、それは地域ケアの実践となるかと思います。2012年の介護保険制度改正を意識すれば、それを地域包括ケアと言い換えても良いかも知れません。地域包括ケアは一般に、「地域住民が住み慣れた地域で安心して尊厳あるその人らしい生活を継続することができるように、介護保険制度による公的サービスのみならず、その他のフォーマルやインフォーマルな多様な社会資源を本人が活用できるように、包括的および継続的に支援すること」※1と定義されているものであり、利用者の生活支援を専門職のみで行う視点ではなく、地域の企業・商店・住民をも巻き込んだ形で展開されていくべきものであると明示されています。そのことを通じて、地域住民の理解や協力を促進し、その意識の変革をも試みる実践です。
生活支援における「生活」は本来非常に幅広いものであり、福祉や介護の専門職だけでは到底守れるものではありません。そのことの限界をしっかりと認識した上で、他分野における専門職及び地域住民との連携をもって利用者の支援を行う視点が今まさに求められているのでしょう。
連載中お示しさせて頂きました様に小規模多機能型居宅介護(以下「小規模」)のケアマネジメントには、見守りや軽微な家事支援等を地域住民に依頼することで、利用者の生活の質向上と事業所運営の安定化を図る事が出来る素地があります。地域の絆においても、独居世帯・高齢者のみの夫婦世帯・多くの問題を抱えた世帯に属される利用者の支援に際しては、なるべく多くの地域住民の協力を要請した上で行うことにしています。
また、地域ケアの視点で事業所の運営を鑑みれば、「徘徊」時見守りや、災害時の協力等を住民から得る事ができ、事業所運営の安定化にもそれが寄与することに繋がります。私たちの事業所では、お一人で外出された利用者を事業所までお連れ下さる住民や、職員に知らせに来て下さる住民は決して珍しくはありません。
かてて加えて、地域ケアは対象者を限定しない共生ケアの視点も有しており、高齢者に限定しない支援機能を保持することによって、地域の多様なニーズに可能な範囲で対応できる様になり、やがてそれが地域住民との信頼関係の構築へと繋がっていくことでしょう。地域の絆各事業所においても、不登校・発達障害・触法といった課題を抱えている児童の受け入れや、障害を持たれた方の就労訓練の場として、「小規模」が地域に機能している姿を報告させて頂きました。
如上の体験的学習を通じて地域住民に意識の変革を促進する可能性も地域ケアは秘めており、地域ケアの実践を突き詰めるとそこには、誰もが自分らしく安心して暮らせるまちづくりに行き着くことも理解されます。利用者の日常生活圏域内で、その居宅での生活に対し、「通い」「訪問」「宿泊」「ケアマネジメント」の機能を臨機応変に組み合わせて支援を行う「小規模」には、この地域ケア実践の素地があると確信しております。
地域の絆の実践の中で、その推進力となる姿勢は、「とにかくやってみる」というものでした。地域の要援護者を地域住民の協力のもと支え合っていく実践は、口で言うほど簡単なことではありません。そのためには、日々の地域住民との交流が欠かせません。悩むべきは、何を手掛かりに交流すれば良いのかにあるのではないでしょうか。よく地域住民のニーズに応じた実践が取り沙汰されますが、そんなものは端から知る由もありません。ましてや、コミュニティアセスメントという実践的概念が確立されている様子もないのです。その中にあっては、一人の住民のニーズからでもいい、まずは暫定的にニーズを捉えて、とにかくやってみるという姿勢が欠かせないのではないでしょうか。
地域の絆では、事業所ごとに年3回のイベントの運営を行っていますが、活動する中で、�―嗣影瓜里慮鯲�が出来ていない、�∪ぢ經屬慮鯲�が出来ていない、��子どもの育成に必要な地域活動がない、といった形で捉えるニーズが変遷しております。対人援助におけるニーズも同様、大切なのは初期のアセスメントではなく、実践の中での関わりとしてのモニタリングや再アセスメントにあるのではないでしょうか。ニーズは常に流動的で可変的なものなのですから。
であればこそ、捉える事の出来ないニーズの把握に紆余曲折する前に、地域に実践を「投げかけていく」ことから始めるべきでしょう。できない理由を考えて何もしないのではなく、気軽な気持ちで仕掛けてみることが地域交流の第一歩なのだと私たちは理解しております。
それが、連載でもご紹介したペットボトルのキャップ回収であったり、子どもを対象にした書道・茶道等の教室、子ども会の会議場としての事業所の提供、広報誌作成における住民の参画等の実践に該当します。何でも結構です。地域に投げかけて、その反応を見ながら次に投げるものやタイミングを計りながら、また次を投げかける。その様な実践が求められているのではないでしょうか。
もちろん志なく、無造作に投げかけてもそれは決して響くものではないでしょう。私たちがどのような姿勢や思いで地域住民と向き合っているのか。そのことは絶えず問いかけられていることでしょう。「小規模」には素晴らしい「素地」があることを2年6か月の連載を通じてお伝えしてきたつもりです。しかしながら、その「素地」を生かすも殺すもそれは、私たち実践者の姿勢や取り組みに依るものと言えます。
※1 財団法人 長寿社会開発センター『地域包括支援センター業務マニュアル』P.9 2010年3月
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