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NPO法人 地域の絆

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中島康晴

地域の絆 代表理事 中島康晴

【通所サービス編】地域の一員として認められるためのさまざまな取組み実践例

2015/03/30 19:42:47  地域密着型サービス


1.はじめに−地域の絆の考える地域活動の目的と意義−
 2006年の介護保険制度改正によって地域包括支援センターと地域密着型サービスが創設され、地域包括ケアへの機運が高じてきました。そして、今や地域包括ケアを意図していない実践家は皆無であるかの様相が、特に我が国の介護保険事業にかかる状況ではないでしょうか。

 しかし、この中にあって幾つか留意しておかなければならない視点があります。一つは、個人に多様性があるように、地域においても様々な地域性があるということです。地域は個人の集合体ですので、個人のそれより多様な構成要素があるものと考えられます。例えば、規模や地理、気候、文化、歴史、宗教、言語、産業等の環境の在り方や、そこで暮らす人々の思想や共通理解も各地域によって大きく異なるものであると言えるでしょう。つまり、これからお話しする私たちの実践や方法は、私たちの実践地域では有効であったと言い得るでしょうが、皆さんの活動地域においてはこの方法がそのままの形では使えないことがあって当たり前であるということです。よって、私たちが他者の実践から学びを得るときの大事な観点は、その実践をありのまま模倣するのではなく、私たちの置かれた状況(組織や地域の在り方や私たち自身の個性や専門性)に応じて、改変・調整したうえで援用して取り入れるというところにあります。本章はこのような視点で読み進めて頂きたいと思います。

 そして、今一つはケアとしての個別支援と、まちづくりに関連する地域支援を繋げたものが地域包括ケアであり、このケアと地域の連動を実践家自身が頭の中で描けなければその実践は成し得ないという事実です。従来ケアワークの担い手たちは、目の前のクライエントに焦点化した支援に終始してきたと考えます。そこに、地域包括ケアの概念が突然に舞い降りて来て、地域にも関心を向けざるを得なくなったというのが現場の様相ではないでしょうか。この地域とケアを、思想的に、そして、実践的にも連ねる為に必要な視座は、ケアワークではなくソーシャルワークにあるというのが私の持論です。旧来よりソーシャルワークでは、クライエントに焦点化した支援ではなく、クライエントとその背景にある社会環境を一体的に捉えた支援が叫ばれてきました。そのような実践が数多なされて来たかは定かではないものの、考え方としては、以上の立ち位置で実践を行うのがソーシャルワークであるとの共通理解はなされていたと認識します。ここでは、地域包括ケアを進めるためにはソーシャルワークが不可欠であることの説明も試みていきたいと思います。

 如上のことを鑑み、私たち「地域の絆」における地域活動の要諦は、ソーシャルワークの理論に基づいた経営理念の共通理解を組織内に促進し、各地域に応じた多様な方法を創造・選択して実践することにあると説明できます。即ち、介護保険事業を展開する私たちが、クライエントの支援に終始するのではなく、クライエントの背景にまで裾野を広げた実践を推し進めていくことに私たちの真骨頂があると言えるのです。

 そして、これらのことを促進していく目的は、クライエントが安心して暮らすことができる地域社会を構築することにあります。クライエントがその地域で安心して暮らすためには、認知症や障がいのある方に対する地域住民の理解や協力が不可欠です。しかし実際には、多くの地域では、この理解や協力を得ることが難しく、であればこそ本章のテーマにも取り上げられているのが現状です。私たちには、この目的を遂行するために、地域住民の理解や協力を促す、つまり、その意識の変革を促進することが求められているのです。

 社会教育分野においては、地域住民の意識に大きな影響を与えるものは、体験や経験であると言われています。つまり、その活動に興味はなかったが関わっているうちに興味がわいてきた、その実践の重要性は理解していなかったが引っ張り込まれて参加する間にその必要性を認識するに至ったという体験的な学習こそが人々の意識を大きく変革する可能性があるというものです。私たち「地域の絆」は、このことに着眼した実践を強く意識しています。要するに、障がいのある人とない人の関わりの体験を地域の中で数多創出しようというのが私たちの意図する実践なのです。

 かつてのケアワークの時代においては、クライエントへの支援に収斂するあまり、クライエントと地域を峻別した支援が行われてきました。その結果、クライエントの暮らしと存在は、地域住民からは認識されないものとなり、また私たちの仕事も地域住民にとって疎遠な存在へと化してきたのです。この様に、障がいのある人との接点を稀釈した地域住民は、障がいを身近なものと捉えることや、自らのこととして認識することにまで困難を来たすようになりました。

 この様な現状の課題に対して、この流れを逆流させようというのが私たちの実践の中核となっています。つまり、クライエントの暮らしと存在、そして、私たちの仕事にまで、地域住民に関わってもらうこと、クライエントそして私たちとの関わりの機会を地域に意図して押し広げていくことこそが実践の基盤としてある訳です。そのことによって、地域住民に体験的学習の機会を提供し、障がいに対する認識をより身近に捉えてもらうことを狙っているのです。


2.地域活動に求められるソーシャルワークの機能と役割
 ここではソーシャルワークを以下の様に定義しておきます。

(襪蕕靴鵬歛蠅鯤えている人々(クライエント)に直接支援を行うこと、
▲ライエントが暮らしやすい社会構造(家族・地域からなる社会の構造)を構築するよう働きかけること、
クライエントのニーズを中心に、クライエントと社会構造との関係を調整すること、
だ府・行政に対し、クライエントのニーズを代弁した社会的活動(ソーシャルアクション)を行うこと、

 これらの4つの仕事を通して、クライエントが暮らしやすい社会を構築し、延いては、全ての人々が暮らしやすい社会を創出する専門性の総体、これがソーシャルワークであることを確認しておきたいと思います。

 特にケアワークとの違いは、△鉢い砲△襪搬えることができます。まさに、社会環境に対する働きかけがソーシャルワークには求められているのです。また、地域包括ケアの実践が求められているケアワークの領域においても、実はこれらのことが今まさに求められていると言えます。であるならば、これからのケアワークに加えるべき最も必要な機能は、ソーシャルワークであると言って過言ではないでしょう。

 通所サービスにおける相談員に求められている機能がソーシャルワークであることを認めれば、まさに、今までのケアワークで求められてきたことに留まっていれば、それは相談員としての役割を果たしたことにならないと自覚すべきではないでしょうか。特にこれから、通所サービスの相談員に求められる役割としては、地域包括ケアを念頭に、事業所のケアワーカーに対してソーシャルワークの機能を付加していくことと、そして、自らがソーシャルワーカーとしてクライエントのニーズを代弁し、地域社会と向き合っていくことができなければなりません。まさに、組織にソーシャルワークを普及し、個別支援たるケアと地域支援が表裏一体の状況にあること、相互作用の関係にあることの共通理解を推し進める主導的役割を担ってもらいたいと願わずにはいられません。

 一方で、人々の信頼関係の希薄化や、様々な課題の山積している各々の地域に対して、事業所の相談員だけがそれに対処することは現実的ではありません。自らがソーシャルワーカーとしての役割を担いながらも、事業所内における全ての職員にソーシャルワークを流布し、多くの職員が地域課題に向き合うことができるようにすべきです。でなければ、相談員に過度なる負担がかかり、結果、地域活動の継続性が危ぶまれることになるからです。地域との連携や、地域支援がむしろ相談員の独占業務とならないよう、組織全体で取り組む道筋が必要だと考えています。


3.地域活動に必要な要素
 いわずもがな、人間は本来主体的・能動的に生き、そのことを通して発展・成長を遂げていくものです。また、この成長の過程には、必ずや、他者との関わりや対話の機会が不可欠となります。この様な人々の関わりの機会が豊富に見込める地域は、人々の成長と発展に欠かせない場所になり得ると私は捉えています。つまり、地域活動で重要なことは、活動の過程における人々の関わりと対話の時間を大切にした実践を堆積することにあると言いたいのです。そのことが、人々の成長と発展のみならず、組織や地域の発展へと連なるものと信じています。よって、地域活動を単に実施することや、地域の催しに参画するのみならず、その活動の過程における地域住民との対話と関わりの時間が私たちの活動では重要となってきます。

 当然対話や関わりは、活動前後に実施される説明会や反省会といった会議の場面でなされるものです。しかしその機会は、全ての活動の過程において意図して設けることが可能です。例えば、活動では、目的遂行のための様々な作業があります。備品を運んだり、並べたり、物を作ったり、共に歌ったり踊ったりといったこれらの作業の最中での地域住民との関わりや会話を大切にしなければならないと私たちは考えています。また、そこで得られた情報を組織の中で共有し、次への活動に繋げていくことも重要です。

 さらに言えば、対話と関わりの機会は、地域活動の場面以外にも日常的に設けることができます。出退勤時に地域住民とすれ違うことや、クライエントの外出支援の折、外勤時などに私たちはその機会を得ることができるのです。この様な日常的な場面において、私たちは、挨拶と日常生活会話を大切にすることを法人の行動指針に謳っています。

 私たちの法人の名称は「地域の絆」ですが、地域における「絆」を構築していくことが私たちの実践の目的であると言えます。この「絆」は、「人々の信頼の関係」に置き換えて捉えることもできます。つまり、地域における人々の信頼関係を構築することが私たちの仕事であると認識しているのです。しかし、信頼の関係は、段階を経て構築されるものです。ある人々の関係が一足飛びに、信頼あるものへと到達するものではありません。日常的な会話と関わりの中で、お互いの人柄や職業、趣味などの情報と思いを共有し、その継続された過程の中で、やがて信頼の関係へと成就していくものであると考えています。そして、人と人とが支え合い・助け合うためには、その両者の関係の基盤に信頼がなければならないことも事実です。つまり、地域住民における支え合いや助け合い、そして、地域包括ケアを促進していくためには、地域住民間における信頼の関係を構築していく必要があるのです。そして、その信頼の関係は、日常的な関わりと会話の継続によって創造されていくものと言えます。

 であるならば、私たちは、地域住民との日常的な会話や関わりを等閑にして、信頼の関係を構築することなど出来ないし、そのことによって支え合い・助け合うことも儘ならない現実を明確に捉えることができます。何か新しいことに取り組みたいとき、困った折に、私たちが共に手を取り合い助け合うためには、日常的な連携が不可欠なのです。このことを私は、「有事の為の平時の連携」と言っています。人々の暮らしの「有事」は、自然災害や事故に限定されるものではありません。身内が認知症になることや、子どもが生まれること、自身が年をとることなど、暮らしにおける「有事」は実に多様で多量に存在します。「有事」を乗り越えるためには当然に人々の支え合いが不可欠です。しかし、日常としての「平時」から人々の連携が成されていなければ、恐らく、この「有事」の際の支え合いは機能することが期待できないと思います。私たちは、日常的な関わりの中で、お互いを認識し、お互いの存在を認め合い、その関わりを大事にしておらねば、「有事」の際に支え合うことなど出来ないのです。

 以上、私たち「地域の絆」が、地域活動において重要視している点はここでは次の二つを挙げることができます。‖佻辰抜悗錣蠅硫當を大切にすること、◆嵳事」に支え合うためには、「平時」の日常的な関わりがその基盤として無ければならないこと。そして、関わりや対話はいつも円滑で微笑ましいものとは限りません。時には、軋轢や葛藤、対立が生まれることもあります。しかし、その過程を経ることでしか、私たちはこの「絆」を地域に創造することは出来ないのです。


4.地域との連携の実践事例の紹介
 ここでは二つの視座に基づいて、「地域の絆」における事例の紹介をしていきたいと思います。一つ目は一節の「地域活動の目的」の箇所で説明した体験的な学習を意図した実践についてです。私たちは単にまちづくりをその仕事としているわけではありません。飽くまでも、クライエントの権利を守り、暮らしの質を高めるために地域と向き合うことが私たちには求められています。つまり、地域活動の中心にはクライエントの存在を据える必要があるのです。ですので、私たちの実践する地域活動は、その活動におけるクライエントの居場所と役割があることを重要視しています。

 障がい分野の施設における地域活動では、クライエントが作成した食品や物品を、クライエントが店頭で販売することなどは珍しいことでは無いかもしれません。一方で、高齢者分野では、その様なクライエントが役割を担う場面が少ない様に私は感じています。写真,任蓮▲ライエントが作った豚汁やうどん、善哉などをクライエントが店頭販売を行っている様子を示しています。たとえ認知症のため円滑な販売が困難であっても、地域住民はその事を理解した上で「美味しいね」と言って食べてくれます。また、これらの一連した活動で主体的な役割を担うことができたクライエントにも達成感や充足感、そして自己有用感が醸成されていきます。

 写真△蓮地域の中学校からの要請で、戦争体験をクライエントが生徒に語っている場面です。実は、私たちが地域活動においてクライエントに役割を持ってもらう際、最も重要視している点が、ストレングスモデルの観点です。ここではストレングスモデルを次の様に定義しておきます。


「クライエントの弱み(ウィークネス)にのみ着眼するのではなく、強み(ストレングス)にも着眼するケアマネジメントの一つのモデルであり、クライエントの持っている強み(意欲・嗜好・抱負・希望・夢等)のみではなく、環境の持つ強み(地域や家族との関係性や社会資源等)を同時に引き出し、クライエントの自己決定の促進と自己実現を目指すものである」。


 つまり、クライエントの夢や希望、趣味、特技、集中できるもの、こだわりや、クライエントが自らの環境に有している強みと言える関係(親族や地域住民とのつながり等)といったストレングスを活動の役割に変える工夫を凝らしているのです。ここでは、クライエントの戦争体験という強みを地域における役割に変換するという介入の機能を職員は果たしていると言えるでしょう。自らの強みを中学生に対する役割へと変遷することで、このクライエントの身体機能的状況と精神・心理的状況は一定程度向上しました。自己有用感が満たされたわけですからこれは当然の結果とも言えます。しかし、本事例の最も優れている点は、このクライエントと地域住民との関わりと対話の機会を通して、地域住民の認知症高齢者に対する捉え方に変化を起こしたことにあります。活動後の聞き取りにおいて、中学生とその先生たちは、〈昔のことなのに細かく覚えていることに驚いた〉〈長時間の話は体力的に難しいと思っていたが、長時間話ができることに驚いた〉〈思った以上に説明が分かりやすかった〉などの反応を示しました。これは、体験を通じて、中学生と先生の認知症高齢者に対する視点が変わったことを物語っています。このように、クライエントには、人々の意識を変革する力があるのです。クライエントであることの強みをクライエントが有していること。この事実を私たちは受け止める必要があります。

 二つ目の見地は、活動における過程の在り方そのものにあります。私たちが運営するある事業所では、長らくサロン活動を実施しています。この活動は、当初職員主導で始めました。地域住民に事業所を身近に感じてもらうために、おやつ作りをするサロン活動を職員の提案で開始したものです。その後、このおやつ作りの活動の最中に、参加者から様々な暮らしにおける課題を聞き取り、おやつ作りの活動は別の活動へと変遷して行きました。例えば、漢方薬の処方について曖昧な知識のまま服薬されている地域住民がいましたので、漢方薬に詳しい専門医に依頼し、地域住民を対象に講習会を開催したり(写真)、腰痛で悩んでいる地域住民のニーズに応じてカイロプラクターを招いて腰痛予防体操を開催したり(写真ぁ法△感畚蠅竜澣淅汰場面に直面したことから、救命救急に対する意識が高まった地域住民を対象に消防署員による救命講習会を開催することなどが挙げられます。また、「地域の絆」の各事業所では、事業所の避難訓練は専ら地域住民と協働で実施していますが、この事業所では、ある訓練を経て、地域住民から、車いすの操作方法が分からないので今後は協力できないと言われたことがありました。緊急避難時では、車いすでクライエントを避難誘導することになっており、その操作方法が不明瞭であれば、役に立たない所か却って足を引っ張ってしまうという私たちに対する慮りから生じた反応でした。この反応に対して、私たちはすぐさま、地域住民を対象にした車いす教室を開催しました(写真ァ法

 この様に地域活動は、その活動の中で新たに知り得た地域住民の思いや反応をもとに、現在の実践内容を絶えず変化させていくことがその要諦であると私たちは理解しています。冒頭で叙述した通り、多様な構成要素で成り立っているのが地域であり、その様々な地域を一つの指標で評価することには多大な困難を要します。つまり、地域住民のニーズを捉えることは容易なことではないと認識するのです。加えて、地域住民のニーズにかかわらず、あらゆるニーズは、流動的・可塑的なものであると言えます。ニーズは、自らの状況に応じて、そして、周囲の環境に応じて絶えず変化するべきものなのです。

 そこで地域活動において私たちは【図】の様な援助過程を取るようにしています。この【図】は、如上のニーズの傾向を踏まえて、地域住民のニーズを確定することに労力を費やし焦点化するのではなく、一人の地域住民の主訴や声をもとに、まずは何らかの活動を実施してみる事に特徴があります。そして、その活動の過程で関わりを持った地域住民との対話の中から、彼らの思いを抽出し、その捉えたニーズに応じた新たな活動を計画し、実践を重ねていくことを大切にしているのです。ですので、私たちの地域活動では、過程・即応・改変が重要であると捉えています。

 活動における過程での地域住民との関わりと対話の機会を大切にし、そして、そこで知り得た新たな地域住民のニーズに対して即応し、その積み重ねによって、活動そのものの在り方を改変していくことが重要であると認識しているのです。そして、地域活動において、一番忌避すべき方法は、地域住民のニーズが分からないので何も活動をしないということです。そもそも、地域住民のニーズとは何でしょうか?全構成員の総意としての地域ニーズは果たして存在するのでしょうか?また、一度確定した地域ニーズは揺るぎないものなのでしょうか?この様に本質的な課題を有している地域アセスメントに焦点化するのではなく、実践の中で、地域住民のニーズに接近する方法を検討すべきだというのが私たちの見解です。実践家であるならば、その理論の範疇において、現実面における効果的な方法を開発することも考案すべきだと私は思います。これこそが実践家の醍醐味ではないでしょうか。


5.まとめと今後の課題
 本章では、ソーシャルワーク理論に基づいた介護保険事業所による地域活動の考え方と実践について論じてきました。首尾一貫して述べている通り、実践の方法については、皆さんの組織の在り方や地域性に応じて、これから際限なく創造・選択できるだろうと考えています。他方、ここで示した幾つかの考え方については一定の汎用性があるものと認識しています。この点を踏まえながら本章を参考にしてもらえれば幸いです。以上のことを前提に、事業所が展開する地域活動における留意点として次の3つのことを最後に記しておきます。

 一つは、私たちが地域に「ひらかれた」※実践を敷衍していくことは、クライエントの暮らしの質を高めることに繋がるという共通理解が必要であるということです。特に重要なことは、支配的援助関係に陥りがちな、非対称性と言われているクライエントと私たちの負の関係を緩和する作用が期待できるところにあります。事業所という閉鎖された空間内で、お世話をする側とされる側の関係が、長時間滞留しておれば、無意識の内に“お世話をする側”の理論が先行し、“お世話をされる側”の思いが度外視される傾向が強まります。クライエントの思いを度外視するということは、それはクライエントの「モノ化」に繋がると言え、いわゆる権利擁護の実践とは対極の位置へと帰結するものです。この権力関係を緩和するには、絶えず第三者の視点を取り入れ、そこで、適度な刺激を受けながら私たちは職務を遂行することが求められます。地域に「ひらかれる」ことは、無意識に起こりがちな、私たちとクライエントとの支配関係を予防ないし緩和する機能があることをここでは共通認識しておきたいと思います。

 そして、二つ目に、「絆」即ち「人々の信頼の関係」を構築することの困難さがあります。生まれも、育ちも、職業も異なる私たちが、地域の中でこの「絆」を構築する際、必ずと言っていい程起こり得ることに意見の対立や軋轢が挙げられます。クライエントの暮らしや社会福祉を身近なものとして、自らのこととして捉えることが困難な地域住民との対立や軋轢の経験は、かつて多くの実践家が経験してきたことであると認識します。しかし、本来多様な人々が信頼の関係を構築するためには、対話と関わりが不可欠であり、この過程において対立や葛藤は避けては通れない現実があります。つまり、対立と軋轢は、人々が信頼関係を構築するための必須で、かつ重要な過程であると言えます。逆説的に言えば、対立・葛藤・軋轢を経験していない組織や集団には信頼関係が構築されづらい素地があるとすら私は考えています。
またこの時、一番やってはいけないことは、「この地域の住民は、社会福祉に理解がない!」とレッテルを貼って、対話と関わりの機会を諦めてしまうことです。また、私たちがこのようなレッテルを貼り続けている間は、少なくともその地域住民が、社会福祉に理解を示すことなど有り得ないでしょう。地域と向き合う際にも、ストレングスモデルの視点は重要な要素となり得るのです。

 最後に、クライエントの権利擁護を念頭に地域包括ケアを展開していくためには、政府や行政と私たちの役割を明確化する必要があります。人々の生存権の保障や尊厳の保持は、憲法で定められている以上、この範疇は第一義に政府・行政の責任においてなされるべきものです。当然に介護保険事業者の役割としては、私たちの責務も多くがここに該当します。そして、地域包括ケアや本章で論じてきた地域活動は、これら責務の基盤の上に付加した形で、クライエントと地域住民の暮らしの質を更に豊かな状態へと発展させるものでなければなりません。仮に、政府や行政が本来担うべき生存権の保障や尊厳の保持までも、地域包括ケアや地域活動において賄っていくというのであれば、公的責任の減退という意味において、我が国の社会福祉の質をむしろ貶めることに帰結するからです。地域包括ケアや地域活動は、飽く迄も、公的責任の土台の上に積み上げる機能として存在すべきであり、公的責任の代替的役割を担うものではありません。

 以上の様に、ソーシャルワーカーとしての相談員には、マクロ・メゾ領域のみならず社会構造全般を捉えたミクロ領域に対する見識も同時に求められているのです。


※ 本章では、「開く」と「拓く」の双方の意味を併せ持つという意で「ひらく」と表記します。
 


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通所サービス事業所として地域社会と連携する・地域に貢献するということ

2013/04/15 00:45:17  地域密着型サービス
1.介護保険事業における地域包括ケア考
 制度としても4月から謳われ始めた地域包括ケア。その言葉には随分耳慣れしてきた昨今ではないでしょうか。厚労省における定義やその他研究者及び実践者による定義も含めて考えると、言葉自体は普及しつつあっても、その内実、具体的なあり方までは共通理解が成されていないように思われます。そもそも、多様な地域性が存在する津々浦々で、画一的な発想で行うべきではないのかも知れませんし、また今はまだその時期ではなく、多くの新しい可能性に挑戦し続ける時期にあるのではないでしょうか。地域包括ケアはこうあるべきだと凝り固まった実践を行うには、時期尚早であるということです。

 そのことを前提に、私になりには、3つの視点が欠かせないと考えております。一つは、利用者の支援において、介護保険サービスに限定したフォーマルな社会資源のみならず、その他フォーマル・インフォーマルな社会資源を積極的に活用していく視点にあります。その際の社会資源に対するアプローチは、その把握のみならず、発掘・開発・創出という積極性のある関わりが不可欠であるとも認識します。更なる視点は、医療・保健・福祉の連携のみならず、その他司法・教育・環境等あらゆる分野における連携の幅広さが求められているという点です。総人口における認知症高齢者数が更に増加するであろう20年・30年先を見据えたまちづくりを念頭に幅広い連携が求められています。また、医療と福祉の連携は未だ不十分であると言われています。ケアマネジャーが主治医との連携を不得手としていることは、あらゆる研究データーや資料としても登場してくる有名なお話です。地域包括ケアを推進するに当たって、実はまず手を付けなければならない点は、今更ながら医療と福祉の連携にあるように思っております。最後の視点は、未来志向の地域包括ケアにおいて欠かせないものです。いわゆる対象者を限定しないケア。つまり、介護が必要な高齢者だけを対象にした実践ではなく、同じ地域住民のうち、あらゆる生活課題を抱えていらっしゃる人々を対象にケアを展開していく共生ケアの視点がこれに当たると認識しています。対象者を限定しない共生ケアの必要性は謳われているものの、それが中々普及しない理由を検証し、今後再構成する中で、新しい形の普及を目指すべきだと考えます。

 地域包括ケアは、定義や概念等の形から入らずとも、目の前の利用者の生活支援を真摯に考えることからもその必要性が理解されるものではないでしょうか。生活支援における「生活」は、質的に非常に幅が広く、時間的にも24時間365日の連続性のあるものです。それを果たして、「介護」だけで支えることが出来るのか。また、社会学者の上野千鶴子氏も採用・同意されている次のケアの定義から類推してもそれはよく分かるのではないでしょうか。即ちケアとは、「依存的な存在である成人または子どもの身体的かつ情緒的な要求を、それが担われ、遂行される規範的・経済的・社会的枠組みのもとにおいて、満たすことに関わる行為と関係」※1と定義されています。直接介助や支援をする「行為」ばかりではなく、その「関係」に言及している点が注視に値します。この「関係」は狭義で言えば、ケアをする側とされる側の関係を指すのではないかと思われます。つまり、良質なケアとは、ケアされる側もする側も幸福でなければならず、であればこそ、ケアする側の幸福を担保するために介護者も誰かに支えられる必要があると言えるでしょう。要介護者のみならず、その方を支援している介護者の双方の支援を鑑みた際、果たして福祉・介護専門職だけでその支援を成し遂げることが出来るでしょうか。また、本定義によれば、介護やケアは、「社会的枠組みのもとにおいて」行われるわけですから、如上の様にケアをする側とされる側の関係を超えた幅広い相互支援を構築していかなければその実現は成されないものと理解されます。つまり、福祉・介護のみでは、利用者の生活を守ることが出来ない。この自明の理の下、あらゆる社会資源との連携を図り、そのことをもって利用者の生活支援に期する視点を我々福祉・介護専門職は持つべきであると強く申し上げておきたいと思います。

 斯くの如く、利用者の個別支援といったミクロから端を発しても、また制度等のマクロからの視座であっても、双方の視点において地域包括ケアの様な実践が今強く求められているようです。冒頭申し上げたように、しかしながら、これは未だ創設期にあり、開発途中のものであると認識すべきです。これから全国各地域における多様な実践の中から改めて帰納的に定義づけられていくものと考えております。ですので、もっと自由闊達に議論されていいのではないかと思うのです。


2.地域に開けた通所サービスになるためのアクションプラン
 上記の考えを踏まえた当法人(以下「地域の絆」という)が考える11のアクションプランをここではご紹介しておきたいと思います※2。「地域の絆」では、認知症対応型通所介護をはじめ、小規模多機能型居宅介護や認知症対応型共同生活介護の運営を行っておりますが、これら地域密着型サービスの運営の中で、まちづくりの拠点化を図る具体的な実践を行っております。

 ❶地域住民との協働運営の視点。
「地域の絆」の運営する各事業所に対して、「開設一年目からの凄く地域と連携が取れていますね」とよくご評価を頂けることがあります。しかしながら、私たちは開設一年前から地域住民に対する関わりを始めているのが常です。建物の設計図面が青写真の段階で、地域住民に対する説明を開始するのです。多くは、公民館やコミュニティセンター等の公共施設をお借りして、場合によっては何度も住民説明会を開催させて頂きます。毎回の説明会の要旨としては、)/様念、∋楡澣’宗↓C楼荵抉隋↓し設工事、それぞれの項目について説明を行っています。実は特に大事にしていることは、,鉢にあります。法人が如何に地域のために事業を始めようとしているのか。法人の地域に対する思いと姿勢を伝えることに焦点化して説明を行います。△呂茲い里と意外に思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、こちらの利己性が見られる△砲弔い討蓮敢えて熱心に説明しないのが私たちのやり方です。そして、ここでは必ず質疑応答の時間を設け、意見交換の時間を取ります。また、その場では意見の述べにくい方もいらっしゃいますので、必ずアンケート用紙を配布し、ご意見の把握に努めるようにしています。実は、「地域の絆」の各事業所の名称は、地域住民が説明会やアンケートを通して命名して下さったものです。

 また、一部地域密着型サービスにおいては、災害時の避難訓練等は地域住民と協働で行うように努める必要が省令で謳われています。私たちも避難訓練は極力地域住民の参加の下実施をしております※3。地域住民が避難訓練に参加することで、私たちの勤務体制や人員配置、利用者の生活等のご理解を頂くことにも繋がっています。ある地域住民は、職員数の少なさに驚かれる方もいらっしゃいますし、車椅子の押し方が分からないので、協力できないとおっしゃられるなど色々と感じ考えるところがあるように見受けられます。
 
 その他、開設時に職員が集まらない時は、地域住民が職員の斡旋を次から次へとして下さったことや、協力医療機関が中々見つからなかった際には住民が地元の医療機関と話を付けて下さることもありました。

 地域包括ケアが促進されると、利用者は概ね30分の移動圏域内でサービスの利用をすることになります。であれば、自らが住んでいる地の一番身近にある事業所を今そして将来利用することになるはずです。要するに、今は介護が必要ない住民も、将来は目の前にある事業所にお世話になる可能性が高い。だからこそ、将来の自身の生活に備えて、今のうちに事業所の支援を行っておく必要があるのではないでしょうか。傍にある事業所のサービスの評判が万が一不評であれば、今のうちに何とかするよう行政に指導を要請する必要もあるかも知れません。地域包括ケアは、この様な住民自治の視点にも繋がるものです。また、それをコーディネートする専門職は、その様な視点をもって地域住民に理解と協力を求めては如何でしょうか。

❷共生ケアの視点。
「地域の絆」では、地域包括ケアを対象者を限定しないケアと捉えて実践を重ねています。地域福祉の実践において重要な視点は、「支える側」と「支えられる側」は固定化された関係ではなく、役割や環境が変わればその立場は逆転・変化することがあるということです。また、地域住民との信頼関係を構築するために必要な視点は、高齢者のケアと相談にはのるが、児童や障がい分野のことについては対応しないという姿勢ではなく、あらゆる生活課題を抱えていらっしゃる地域住民に対して、出来ることはさせて頂く姿勢が無ければいけないと考えています。❶で述べたような地域住民に協力を要請するのみならず、事業所としても地域に対して何が出来るのかを考えなければならないのだと認識しております。

 「地域の絆」の各事業所では、毎日の様に、要保護児童や障がい者がボランティア活動に参加されています。ボランティア活動は個別に様々な意味合いがありますが、共通する目的としては、居場所づくりと自己有用感の醸成であり、この点において一定の効果があるものと認識しています。また、認知症高齢者が児童に対して食器の洗い方や調理の仕方、平素の服装においてまで適切に指導され、それを児童も素直に受け入れている不思議な光景を目にすることは珍しくありません。事業所内においては、そこには専ら「ケアをする側」と「ケアをされる側」の二つの関係が存在します。児童や障がい者、そして、地域住民が事業所内を出入りすることによって、例えば、児童に何かを教え、教わる関係も派生します。つまり、多様な関係性は、事業の中では中々生まれづらく、やはり、地域にある多様な立場の人々が事業所に関わりを持つことによって、利用者の生活はより豊かになるとも言えます。

 「地域の絆」の共生ケアの特徴は、あらゆる対象者を受け入れない点にあります。もちろん、主たる対象者である高齢者はどの様な方でも対応させて頂くことは言うまでもありません。申し上げているのは、それ以外の児童や障がい者のことを指します。私たちは、福祉分野における介護の専門職です。そこに対しては一定以上の責任ある仕事が出来ますが、それ以外のスペシフィックな分野に対応するには限界があると認識しています。私たちは、自身の「出来ること」と「出来ないこと」を自覚している者のことを専門職と呼んでいます。であれば、自らが対応できないことを無理に引き受けるべきではなく、しかし、度外視するでもなく、そこに対応ができるその分野のスペシャリストに繋いでいくことが大切であると考えます。認知症ケアや介護のスペシャリストを育成すること自体が多大な時間と労力を要する中、児童や障がい分野の勉強にまでは手が回らないのが現状です。それほど、介護は甘くはありません。ですので、私たちは、福祉専門職としての共通基盤(ジェネリック)の部分で対応を行い、それ以上に特別な専門性を要する場合は、特別(スペシフィック)な対応が出来る専門職との連携の下に、共生ケアの展開を図っています。そうです。専門職として、責任の持てる「共生ケア」を志していると言って過言ではありません※4。

❸基本的コミュニケーションの実践。
 有事に連携するためには、平時における日常的なコミュニケーションが欠かせません。出退勤時、送迎時、利用者の外出支援時等における地域住民との日常生活会話や挨拶を非常に大切にしています。地域住民との日常生活会話も大切な仕事であると位置づけています。意識すれば直ぐに出来ること、当たり前のことを組織だって実践する必要があるのではないでしょうか。

❹情報の開示性。❺空間の提供。
地域との連携における調査等で、専ら上がってくる課題が個人情報保護法による障壁だとか。「地域の絆」の各事業所では、常に地域住民の出入りがあります。これはある種、個人情報が“垂れ流し”の状況にあるのかも知れません。しかし私たちは、利用者の個人情報は利用者の生活の質を高めるために用いると考えております。個人情報は積極的に保護するのみならず、利用者の生活の質を高めるために必要であれば、利用者の同意を得た上で積極的に開示するべきものでもあるはずです。地域的閉鎖は却って利用者の生活の質を低下させる事実に目を目向けた対応が求められていると思っています。「地域の絆」のある事業所では、「徘徊」されて一人で外出される可能性のある利用者の個人情報を、本人・家族の同意の上、自治会の総会の場や回覧板を用いて積極的に情報の開示を行っています。そのことで、「徘徊」時に地域住民が連絡を下さることや、事業所までお連れ下さる関係を構築するに至っています。

 また、まちづくりを実践するためには、人が集い活動する空間が必要であると言われています。まさに、事業所はそれを有していますので、事業所の空間を積極的に地域住民に提供させて頂いております。子ども会の役員会や、老人クラブの総会、下校時の子ども達の待機場所、子どもたちの遊び場、喫茶や足湯の活用など、地域住民に努めて事業所の空間をご活用いただくようにしているのです※5。地域住民が事業所空間を活用することによる事業所の利点は大きく2つあると認識しています。〕用者の継続的な支援と、∋業所内における「普遍的な関係性」の維持が可能となる点です。,蓮現在介護が必要でない地域住民も10年すれば「地域の絆」のサービスを利用するようになる事も考えられます。現に、喫茶コーナーや足湯をご利用の地域住民には高齢者が多く、既に要支援状態にある方も多くいらっしゃいます。その方々が、本格的に介護が必要になった際に、「通い慣れた」事業所で介護サービスを受けることが出来る様になればそれは、環境変化を極力低減させた形の継続的支援に繋がるものと理解が出来ます。△砲弔い討蓮∧頂燭気譴振間内における介護は、支配的援助関係に陥りやすい環境にあると言えます。24時間365日閉ざされた空間内で、介護をする側とされる側のみが存在する環境には、両者の関係性に偏向が生じ、結果、介護する側が恣意的に利用者を管理してしまうといった陥穽にはまる素地があると言えます。そのような偏向した関係を極力「ノーマル」な関係に補正するためにも、そこは地域に開かれた空間であるべきだと認識します。良質なケアを維持するためには、外部の視点や視線を感じながら程よい刺激と緊張感を得ることが不可欠です。地域にはそのような力があるのです。

❻親密度を高めるための多様な仕組みづくり。
地域との関係づくりは、待っていても何も始まらないと考えます。まちづくりの主体者である地域住民が自ら地域に関わり、創っていくための切っ掛けや仕掛けを用意することが大切ではないでしょうか。「地域の絆」では、利用者の支援や、イベントの運営等何かの目的があって地域住民とコミュニケーションをとることもありますが、それ以外に、何の目的もない、いや地域住民との親密度を高めることだけを目的としたコミュニケーションをとらせて頂くことが多々あります。例えば、ペットボトルのキャップやプラスチックトレーを事業所で回収したり、公道に面した土地で利用者と畑を作る事や、喫煙場所を地域住民とコミュニケーションの取りやすい場所に変える等、兎に角忙しい業務の中で、少しでも地域住民とのコミュニケーションの質と量を増やす工夫がなされています※6。

 連携には、「有事」を克服するために行うものと、「平時」から行うものとがあると認識しています。連携には双方の視点が重要であり、人は「有事」(困った時)だけ、連携を図ることが出来ないため、「平時」(日常)の顔と顔の見える関係を数多つくり、それを深めていく地道な実践は避けては通れないと考えています。

❼組織として対象地域像を明確化。
 組織だって地域福祉活動を実践する際の前提条件は、主たる対象「地域」の圏域を設定することと、その共通認識を持つということでは無いでしょうか。※7にある厚労省の報告書を見ても「地域」の圏域は様々です。例えば、ある職員は市内を地域と捉え、別の職員は自治会を地域と捉えて地域福祉活動を行っている場合、その実践の在り方そのものが職員によって違うということになります。これでは、組織(事業所)として地域福祉活動を実践しているとは言い難いと認識しています。ですから、「地域の絆」では、地域福祉活動における主たる対象圏域の設定を次の様に定めています。「高齢者や子どもが、徒歩もしくは自転車で活動できる物理的範囲を考え、自治会及び小学校区の範囲を対象圏域と考える」。基本を自治会と捉え、更にその範囲を広げたとしても小学校区までを対象地域と捉えています。これはもちろん、通所サービスのサービス提供範囲との関係性や、地域性によっても変化するべきものであると理解しています。「地域の絆」の各事業所は今のところ市街地にしか事業所がありませんので、如上の設定としているのです。いずれにせよ、基幹事業の形態と地域性を鑑みながら、対象圏域の設定とその共通理解を確立することは、事業所における地域活動の必要条件であると言えそうです。

❽地域支援に対する職員の意識化。
 事業所が地域との関係性を構築する為の第一義は職員の意識です。全職員が、地域包括ケアや地域密着といった地域住民との関わりの重要性を理解しておらねば、地域との関係を深めることは出来ません。紙幅に限りがありますので、ここでは「採用」の重要性を申し上げておきたいと思います。同じ方向に向かう“電車”に乗れる職員だけを「採用」することこそが、「採用」の要諦です。「地域の絆」では、地域支援を掲げる法人理念に共感しない方の採用は致しません。採用時に、お一人に約1時間半の時間を費やし、その説明と確認を行います。その丁寧な「採用」を通して、法人理念に一定の共感を持つ方のみを職員として迎え入れるのです。無造作に笊の様に職員を採用しておいて、その後の「育成」で人が育たないと嘆くのは本末転倒ではないでしょうか。実は、「採用」は「育成」の要諦とも言えるのです。

❾関わりのプロセスを大切にする。
 地域との交流を促進するために、イベントの運営や、交流スペースの開放、共生ケア等々の多様な実践を行っておられることと思います。しかし、大事なことは、盛大で煌びやかなイベントを行うことでは無く、その準備から当日の運営を経て反省会等の終結に至るまでの過程において、如何に地域住民との交流が促進できるのかにあります。

 「地域の絆」では、例えば、イベントの運営における人手や備品の確保は、全て地域住民のご協力を得て行っています※8。また、その為の準備期間として、イベント開催日の2ヶ月ほど前から地域住民と協議を始めています。介護業務の合間に準備をしているため、最低2ヶ月の準備期間を要する訳です。この営みを何年も続けることで、公民館や集会所の貸し出し可能な備品(長机・パイプ椅子等)の数や、地域住民の自宅の倉庫にある備品(材木・工道具・杵・臼等々)、地元企業の有する備品等を職員は把握できるようになります。かてて加えて、地域住民と協議を行う際の順序や、地域住民ひとり一人の人柄や、持っている技術までも理解するに至っています。協議を行う際に、キーパーソンとして外してはならない住民を度外視して進めてしまったが故に後にトラブルが発生することもありました。住民の人柄を理解しなければ、交渉の精度も高まりません。また、職員と住民との個人的な相性や関係性も連携時の大切な要素となります。そして、忘れてならないことは、地域が有するストレングスに着眼する視点です。住民はそれぞれが多くの強みを持っていらっしゃいます。大工仕事が得意な住民、音響等の電気関係が得意な住民、菜園についての知識をお持ちの方、餅つきの杵取が出来る方など、それぞれの強みを活かした関わりをしていただくことが地域力を高めることに繋がるものと理解しています。全ては多くの失敗を繰り返しながら理解に至った「地域の絆」の財産であると言えます。

❿ネットワーキングやコーディネーションの視点。
「地域の絆」では、医療・保健・福祉領域との連携のみならず、教育や司法分野、地域住民との連携が一定程度図られています。そのことによって、多様な情報収集と、新たなネットワークの構築が成されていると実感しているところです。
❷でお伝えした共生ケアなどは、医療・教育・司法分野の専門職と連携を図った上で実践が成されています。小児科医との連携のもとに発達障がい児の受け入れを行ったり、家庭裁判所との連携のもとで触法少年や不登校児の受け入れに至っております。この様に多様な分野と繋がることによって、地域ニーズに触れる機会を増やすことが可能となります。
 
 また、活動圏域以外(市外・県外・海外)で活動されている人々との交流を通して、自身の実践を高めていくことも大切な視点です。「地域の絆」においても、活動圏域外の見学者の積極的な受け入れや、講演活動等を通して活動圏域外の人々との交流を意図的に行っているところです。そのことを通じて、活動圏域内の実践が高まることは想像に難しくはないでしょう。

⓫複数の実践を複合的・有機的に展開。
 最後に、上記に列挙させて頂きました実践は、多くの実践のごく一部に過ぎません。大切なことは、1つの実践だけを継続して行うよりは、複数の実践(内容や頻度、時間帯、場所、対象者の異なる実践)を同時に行うことが効果を発揮しやすいということです。つまり、一年に一回夏祭りを行っているだけの関わりでは、恐らく上手くはいかないと思われます。複数の実践を同時に“仕掛けて”行くことで、多様な住民と接点を持つことができ、多様な住民同士を繋ぐことも可能となります。また、複数の実践が共鳴し、それぞれが進展することもあるのです。どの実践にも共通する課題が見えてくることも。

 ひとつ一つの実践を丁寧に重ねていくと同時に、複数の実践を複合的・有機的に機能させることも合わせて重要であるとここでは申し述べておきます。


3.まとめ・今後の課題
 地域包括ケアの考え方から、「地域の絆」における具体的なアクションプランについて叙述させて頂きました。総じて大事なことは、個別支援にも地域支援においても、モニタリング(経過観察)と再アセスメント(事後評価)に力点を置くことにあります。特に、地域支援においてはアセスメント(事前評価)が困難であり、その精度も期待できないことから、一人の地域住民の声から実践を始めることも珍しくはないでしょう。大切なのは、その後の援助活動から地域住民の反応や思いに触れる中で、その思いを察して知ること、そしてそこで知り得た情報を言語化し、組織内で共有することにあります。その共有した暫定的な地域住民のニーズをもとに、次の計画と活動の中身を変化させていく。そして、その活動で知り得た情報をまた組織で共有する…。その繰り返しこそが非常に重要であると考えております。その活動プロセスを図式化したものが※9にあたります。一辺倒に同じやり方を続けるのではなく、地域住民の反応を見ながら、やり方を少しずつ変えていくことが必要です。例えば、,任蓮避難訓練時に、地域住民から車椅子の押し方が分からないので協力できないと言われたことをご紹介しました。「地域の絆」の職員は「分かりました」とそこで決して終わらせることなく、その後間髪を容れず地域住民を対象にした車椅子教室を開いたのです。当然にして、多数の参加者を得ることが出来ました。そこから言い得ることとして、一番やってはいけないことは、地域住民のニーズが分からないので何もアプローチをしないことです。しかし、地域住民のニーズなど端から理解している人などいないはずです。※9にあるように、一人の住民の主訴からでもいいのでまずは活動を始めること、行動を起こすことが求められます。

 最後に、認知症ケアの現場でパーソンセンタードケアが叫ばれて久しい昨今ですが、それを成し遂げるためには利用者を取り巻く社会環境の変革が不可欠です。地域包括ケアは、単なる地域住民との交流促進に終始するのではなく、利用者の生活を中心に、地域の社会資源を把握するのみならず、発掘・開発・創出する積極的な地域への働きかけがあって初めて成立するものであるはずです。であればこそ、そこには、ソーシャルワークの視点が無ければ実現が難しいものと思われます。

 地域包括ケアは、地域社会に目を向けたケアではなく、地域社会を変革することで成立するケアであると鑑みれば、それはソーシャルワークの一部であると位置づけることも出来るでしょう。これからのケアは、ソーシャルワークの視点を持たずして、確立できないものであると言って過言ではありません。



※1 上野千鶴子氏『ケアの社会学』太田出版P.39  2011年8月
※7 厚生労働省「これからの地域福祉のあり方に関する研究会報告書」2008年3月31日


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福祉・介護人材育成考

2011/12/05 12:00:00  地域密着型サービス

やる気を引き出す指導法〜福祉専門職育成における要諦

この度、株式会社やさしい手の香取社長をはじめ幹部の皆様方には大変お世話になりました。厚くお礼申し上げます。
 職員の仕事に対する動機づけを維持・強化し、職場定着率を高め、更にそれが育成にも連動するといった少し“高尚”なお話をさせて頂きます。福祉・介護業界では職員の定着率の低さが問題として取り沙汰されています。厚労省の調査結果を大略で見てみますと、主な入職の理由は、「働きがいのある仕事だと思ったから」及び「自分の能力・個性・資格が活かせると思ったから」が大半であり、主な退職・転職の理由としては、「給与等の労働条件が悪いため」や、「仕事の内容がきついため」、「仕事にやりがいがない」、「職員間の人間関係が良くないため」が挙げられているようです※1。これは、「働きがい」のある職場であると認識して入職したが、実際に働いてみると「働きやすさ」と「働きがい」の無い職場であるとの認識に至り退職した事例が数多あることを物語っています。

 まずは少し「働きやすさ」と「働きがい」について考えてみたいと思います。このことを思い起こすと「ハーズバーグの動機づけ・衛生理論」が私の脳裏に浮かんできます。この理論では、「行動の動因は2つの欲求にもとづく」ことを前提としています。2つの欲求では、「第1の要因【衛生要因】」として「賃金や労働条件、人間関係、作業条件等の内容」に対する欲求を指し、「第2の要因【動機づけ要因】」として「やりがいのある仕事、自己成長、目標の達成、達成の承認、責任の増大など」に対する欲求を指すと言われています※2。私は端的に、「働きやすさ」が「衛生要因」、「働きがい」が「動機づけ要因」に其々関係することであると認識しているところです。

 であるならば「働きやすさ」の充足は、例えば、給与水準の向上や、残業時間の削減、有給休暇の取得のしやすさ、手厚い人員配置、福利厚生の充実といったものが挙げられるのではないでしょうか。また、「働きがい」の実感においては、人材育成システムの充実や、法人理念の明確化、所属意識の醸成、適切な権限移譲、福祉専門職としての矜持を持った実践が出来ること等がそれに該当すると思われます。

 ここで注目をしておきたいのは、むしろ「働きがい」の方です。「働きやすさ」を充実するためには法人や事業所独自の努力において、若干は対応できる部分がありますが、その全てにおいては範疇ではないと私は考えております。介護報酬にて、収入の大半はどの法人も同列の状況にありますので、このことに対する取り組みは、一法人・事業所では解決し得ない問題でしょう。だからといって、無論何もしないわけではありません。ただ、いくら努力を重ねても限界があると申し上げたいのです。では、「働きがい」の方はどうでしょうか。その多くは組織的・体系的な問題であり、こちらは法人・事業所努力で多くは対応が出来るものと考えています。「地域の絆」では、「働きやすさ」はもちろんですが、「働きがい」に最も焦点化した人材マネジメントを行っております。法人努力でどうにもならない要素が強い「働きやすさ」よりも、努力によって改善の余地の広い「働きがい」へのアプローチに力を入れているのです。

 多くの職員が求める「働きがい」の中核は、福祉専門職として社会性(社会に貢献すること)の高い実践ができることにあると私は考えています。利用者や家族、地域住民に喜んで頂ける実践がしたいと多くの職員は思っています。そのためにも、自身の専門性をより高めていきたいと。そのような社会的責任や使命感の高い仕事であるからこそ、給与水準が低くとも、労働条件が多少悪くとも、この仕事を選ばれているのだと私は認識しております。

 先ほど挙げた厚労省の調査結果を見ても、そのような動機で就職先を決めていることが読み取れます。また、退職の理由としては、給与等の労働条件の悪さや、人間関係の不味さ等が挙がってはいるものの、やはり仕事にやりがいが無いと言った声も多くある様ですし、一番気になるのは、どの項目にも該当しないその他の項目が一番高率であるということです。かてて加えて、仕事に対するやりがいや矜持が減退すると、金銭的価値を人は求めるのではないかと私は考えておりますので、入職時は「働きがい」を求めて、退職時は「働きやすさ」を求めて辞める構図には、当初の期待の裏切られた感覚が影響を与えているものと推察されます。つまり、多くの職員は、仕事に対する夢や誇りも持てないのなら、せめて、賃金等の処遇で補填してもらいたいという気持ちになるのではないかと考えるのです。

 2000年に介護保険制度が導入され、営利法人も非営利法人も同じ土俵で相撲を取ることが強要されました。その際、社会福祉法人等の非営利法人も、事業性(事業の継続・発展を求めるため収益を上げること)の強化を図ってきたように伺えます。利用者が何人利用して、いくら収入が入ると言った現実的な話が現場の中でも飛び交うようになったのは介護保険制度が導入されてからではないでしょうか。しかし、それは管理職と言われる人たちがしっかりと認識して舵を取ればよい話で、現場で利用者の直接ケアに携わっている職員には伝えるべき話ではないと私は思っています。それを多くの経営者は、現場の職員に求め出したのではないか。

 先ほど申し上げましたように、現場の職員の多くは、専門職としての社会性の高い実践を行い、利用者・家族・地域住民に喜んでもらいたいと思って必死に働いています。経営陣が出来ることは、その思いを大切にすることではないでしょうか。であるにも拘らず、多くの経営陣は現場に社会性ではなく事業性を求め過ぎているのではないかと考えます。それが、職員のモチベーションを下げ、離職率の上昇へと繋がる大きな要因としてあるものと認識しております。

 求人票を見る限り、この業界の給与水準が低いことは一目瞭然です。それでもこの業界の求人に応募し、入職する職員の動機は、給与等の処遇にはないはずです。処遇は良くないが、社会性の高い業務内容に魅力を感じ入職しているのです。であるのに、職場では社会性の高い取り組みが推奨されず、事業性のことばかりを追求される。そのことで、モチベーションを下げて離職する人が多いのではないかという仮説を立てているのです。要するに、給与も安く、夢や希望も感じられないのなら辞めた方が良いと判断されるのでしょう。福祉専門職としての夢や理想、希望を見ることが出来ないのなら、この仕事には何のメリットも見出すことが出来ないのではないでしょうか。

 では、社会性の高さを感じる仕事はどの様になされるのでしょうか。その要諦は、ビジョンを明示することです。目の前の認知症高齢者へのケアが、ご本人はもとより、ご家族や地域にどのような幸福をもたらしているのか、そのことを見せていくことが求められています。また地域住民の理解や協力を促進することが、目の前の利用者の幸福に如何に繋がるのかを見せるのも然りです。

 過日拝読した姜尚中氏の著書においても次のように記されています。
――――「経営者は、これまでのような金融工学的なマネーゲームでは、企業活動の意味を語れなくなったのです。
こうした風潮にともなって、いま、アメリカのビジネススクールなどでは、従来型に代わるテーゼを見つけようと必死になっている気配が見えます。その彼らも、まだ『これだ!』というストーリーは見つけきれていないようですが、こう言いはじめたことだけは確かです。
『なぜ、何のために働くのかという意味づけを、社員にきちんと示せないリーダーは失格である』と。たとえば、『いま、ここでこうやって作っている製品が、十年後の豊かな森林を作るのですよ』とか、『いま、この労働で流している汗が、病気のおじいちゃん、おばあちゃんの心の支えになるのですよ』とか、そのようなビジョンを、フォロワーが納得できるかたちで示せなければならないのです」※3。経済における成長戦略に陰りが見え始めた昨今、産業界においても処遇の向上ではなく、ビジョンを見せることで社員のモチベーションを高める手法が受け入れられつつあるのです。

 目の前の利用者への具体的支援が、どの様な社会貢献に繋がっているのか、この仕事が如何に社会的使命や責任を全うできる素晴らしい仕事であるのか、そのビジョンを示すことなくして福祉専門職の育成は出来ないと自身は考えます。

 また、福祉専門職の育成では、原理原則論や理想・理念を伝えることが不可欠です。人員配置等の多くの制約ある中、理想の福祉実践が出来ず悩んでいる職員が多い中、敢えて、原理原則論と理想を語る必要があるのではないかと私は考えています。「出来ていない」現在を基準に、理想を諦めるのではなく、今「出来ていなくとも」いつかは実現させるための前向きな実践を後押しすることが重要です。恥ずかしいのは、今「出来ていない」ことではありません。今「出来ていない」ことに開き直ったり、居直ったりすることが、専門職として最も恥ずかしい行為であると言えるのではないでしょうか。「出来ていない」現実から、僅かであっても日々改善を図り、前に向かって取り組んでいく姿勢が必要です。それを強化するためにも、経営陣や人材育成担当者には、信念を持って、弛み無く理想を語り続け、その実践を後押しする姿勢が求められています。専門職としての価値・理念や法人理念を、しっかりと理解した上で、それを現場の職員に分かりやすく理解できるよう再言語化することが求められているのです。

 他者が取り組んでいない新しいことに取り組む時、容易には実現し得ない夢や理想に近づく実践時に、人の行動はより尊いものになると認識しています。斯くの如き職場風土でこそ、人は育つし、その職場に誇りを持って留まり続けるものであると認識しているところです。

※1 厚生労働省
「福祉・介護人材確保関係主管課長会議 資料」
(参考資料「介護福祉士等現況把握調査の結果について」)
平成20年12月25日
 福祉・介護分野で働こうと決めた理由
福祉・介護分野の仕事を辞めた理由について見ると、社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士のいずれも「給与等の労働条件が悪いため」の割合が最も高かった。この他、社会福祉士・介護福祉士については「仕事の内容がきついため」、精神保健福祉士については「職員間の人間関係が良くないため」の割合も多い。

厚生労働省
「福祉・介護人材確保関係主管課長会議 資料」(参考資料「福祉・介護サービス従事者の現状(データ集)」「介護職員の定着の状況等」)
平成20年12月25日
 介護職員の現在の仕事や勤務先を選んだ理由
働きがいのある仕事だと思ったから64.6%・自分の能力・個性・資格が生かせると思ったから36.8%・通勤が便利だから35.2%
介護職員の現在の仕事や勤務先を選んだ理由は、「働きがいのある仕事だと思ったから」、「自分の能
力・個性・資格が生かせると思ったから」が多くなっており、「給与」や「労働条件」の割合よりも、本人の仕事内容に対する意欲の割合が高くなっている。
 介護福祉士の転職理由
仕事にやりがいがない20.5%・職場の人間関係17.1%・給与が低い15.0%・その他30.2%
介護福祉士の転職理由は「仕事にやりがいがない」、「職場の人間関係」、「給与が低い」の順で多くなっている。


※2 田中久夫氏『改訂福祉職員研修テキスト 管理者編』全国社会福祉協議会P.82 2008年5月

※3 姜尚中氏『リーダーは半歩前を歩け』集英社新書P. 56-57 2009年9月




福祉・介護人材育成考

2011/11/18 12:00:00  地域密着型サービス

人材マネジメントに必要な基本的な考え方


 今回より、5回に渡って人材マネジメントについて叙述させて頂きます。今から継続してお話しすることは、ある一つの考え方に過ぎません。産業界においても、また福祉業界においても人材マネジメントには多様な考え方があります。私の考え方は、ソーシャルワークという専門性と、産業界における組織性を足して二で割った視点であると自己分析を行っているところです。私の考え方が全て正しいと認識しているものではありませんし、それを押し付ける思いも皆無です。あくまで一つの考え方として、捉えて頂き、取捨選択いただければ幸甚に思います。

 まず、第一回目は、人材マネジメントの概要と基本的な考え方、そしてその目的について共通理解を図りたいと考えます。福祉業界における人材マネジメントの構成要素と大まかな流れは、ゝ畤有∈陵儉G枌岫ぐ蘋ド床銑処遇と捉える事が出来ます。人材マネジメントと言えば、直ぐに管理・育成といった言葉がイメージされるかも知れませんが、これら6つのカテゴリーに対して、どの様な方針を持って、実際に何を行うのかを認識する必要がありますし、全体の流れをしっかりと理解する必要性があります。 峙畤諭廚砲いては、社会に対してどの様なメッセージを発信すれば繋がりたい人材と接点を持つことが出来るのか。◆嶌陵僉廚任蓮∨/佑求める人材の採用基準は何か。「配置」では、どの様な基準で人を配置し、異動させるのか。ぁ岼蘋」では、その目的は何か、それをどの様な方法で達成するのか。ァ嵒床繊廚任蓮△匹陵佑聞猝椶篁愽犬鰺僂い胴圓Δ里。Α崕莇」では、給与・賞与の体系と福利厚生をどの様な視点で配分するのか。6つの視点で、その方針と実践内容をまず明らかにする必要があるでしょう。これは組織的に実践する必要があると私は考えます。因みに、「地域の絆」における方針と実践内容は当HPに示す通りです。

 全体の流れを捉えて頂いたところで、人材マネジメントの目的について考えてみたいと思います。実は、これが不明瞭であれば、如上の6つのカテゴリーの内容が定まりません。何のために私たちは人材マネジメントに労力を割く必要があるのでしょうか。

 一つは、産業界的な考え方になりますが、私たちの業種は、原材料を仕入れて、それを加工したり付加価値を付与して販売するという単純な経営内容ではありません。この経営活動においては、仕入先から原材料や商材を仕入れるという発想は無く、“販売”する“商品”は職員が提供する専門性と組織性に裏打ちされたケアやサービスそのものとなります。つまり、職員の皮膚の内にある専門性と組織性こそが“製品(product)”に当たるのです。ここの質を高めることが出来るか否かが経営の要諦である業態です。であるにも拘らず、我々の業界はあまりこの分野に熱心に力を注いで来なかったのではないかと思いますし、またそれが社会的評価の停滞を招いているとも分析しています。私たちの業界は、人材マネジメントに労力と時間、資源を投入しなければならない所であり、そのことが組織の発展と継続に欠かせない要諦であることをしっかりと認識することから行動しましょう。

 さて、私たちは何のために人材マネジメントを行うのでしょうか。私は大きな2つの目的があると考えています。一つは、福祉専門職を育成するため、二つ目は、法人職員を育成するためです。私たち福祉や介護の分野には、数百年に渡って裏打ちされた専門性が存在します。その専門性は、法人によって大きく異なるものではないはずです。専門職である以上、どの職場であっても共通する価値・知識・技術が存在します。これが専門性に当たるのです。人材マネジメントを実践するに当たっては、この専門性を組織が理解していなければその管理や指導が出来ません。例えば、厚生労働省は、「求められる介護福祉士像」※1を示していますし、日本社会福祉士会は倫理綱領を明示しています。この様な内容が頭に入らずして、福祉・介護専門職の育成は出来ません。組織の人材マネジメントを担う方々はしっかりとこのことを認識しておく必要があります。

 二つ目の法人職員としての育成については、専門性の中でも何を重点的に実践し得る人材を育成するのか、また法人組織人としてどの様な組織性を求めるのかを理解する必要があるのでしょう。この際最も重要視されるのは、法人理念です。法人理念は、組織の存在意義を示すものであり、職員の考え方の基準や拠り所を示すものです。組織は法人理念を遂行するためにあり、法人が求める人材は、法人理念を遂行するために必要な人材であると言えます。「地域の絆」では、「求められる職員像」を役職や職種ごとに可視化(文書化)して、各事務所内に掲示を行っていますが、その元になる考えは、「法人理念遂行のために必要な職員像」から構築されたものです。法人職員としての育成では、\賁臉の中の何処を重点的に実践するべきなのか、∨/輿反イ留娠鎚針・機能を鑑みて、どの様な組織性を求めるのか、をそれぞれ考えていく必要があると私は認識します。特に、組織性の考え方は重要です。私たちは個人で実践しているわけではありません。同僚・上司・部下、更には他職種としっかりと連携を図って、チームで対人援助活動を行っています。認知症ケアは一人で出来るわけではありません。私たちは労働者ですから、決められた労働時間しか利用者に接することは出来ませんので、公休や夜勤、早出、遅出といった変則業務の中で互いに情報共有を図って、利用者に接することが基本的なこととして求められています。しかし、その組織性を理解せずに多くの職員が業務に入れば、夜勤帯の出来事を記録に残さず報告しない、家族からの苦情を上司に報告しない、ミーティングで決まったことを守らない、記録に記載されている内容に目を通さないと言った状況が発生します。この様な組織性の不備は、ケアやサービスの低下を強く招くことになります。また、ケアやサービス場面においては、日々様々な課題が発生しているはずです。例えば、送迎のミスや、服薬管理のミス等の決して許されない失敗を職員がした際、それを個人の責任として処理するのではなく、組織全体の問題であると認識し、組織的に解決することが求められますし、その組織力を高めることが良質なケアやサービスには不可欠であると認識できるはずです。この様な、組織性の教育を行うことも、人材マネジメントの要諦であると私は考えています。

 人材マネジメントの目的は、\賁膺Δ箸靴討琉蘋と、∨/与Πとしての育成の視点があり、それは、専門性と組織性の二つの指標でなされるべきであるというのが私の考え方です。専門性と組織性の一般的定義としては以下のような事が言われているようです。「福祉職場においては、個々の職員がそれぞれ固有の専門性をもって活動し、業務を遂行することによって日常的な福祉サービス機能を高度化し(専門性の向上)、もう一方では、一個の組織体として目的に沿った意思統一が図られ、効果的に円滑化する仕組みにもとづいて相乗効果の発揮(組織性の充実)が図られている」※2。

 人材マネジメント自体は、6つのカテゴリーから構成されている旨前述しました。しかし、6つのカテゴリーの中心は「育成」であると私たちは考えています※3。社会構造を鑑みれば、2025年の労働力人口は、2005年比で5〜12%減少すると言われている一方、必要な介護職員数は同90%〜130%増の人員確保が必要であると言われています。これを基に考えても、経験豊富で有能な人材を外から確保するには限界が生まれます。組織の継続・発展のためには、外部産業や新卒者等の未経験者に対する新規開拓も厭わず実践する必要があるのです。つまり、これらの方々を採用し、自法人で育成する仕組みが不可欠となることが明白です。その様に考えても、「育成」は人材マネジメントの第一義として位置づけられるべきでしょう。

 介護保険事業等の社会福祉事業を担う組織は、社会的企業であると私は考えています。社会的企業とは、社会性の高い理念を持ってその遂行のために、ビジネスの手法を取り入れる組織であると考えますが、最も重要なのは社会性の高い理念を持っているということです。社会性とは、社会や地域に貢献すること、他者の役に立つことを重視する性質のことを指します。他の産業界の事業と社会福祉事業が大きく異なる点は、この社会性の高さであると自身は認識しています。人材マネジメントを実践するに当たっては、この社会性の担保も大事な視点となるようです。自法人の職員だけが育てば良いという視点ではなく、地域におけるあらゆる福祉専門職が育っていかなければ利用者は安心してその地域で生活することが出来ません。また、収益を上げる事業性の事ばかりを、職員に教育してもそのモチベーションは高まりません。職員の定着率やモチベーションを高め、福祉専門職の社会的地位を高めるためには、高い社会性の実践が出来る組織風土も必要なのです。

 目の前の利用者への具体的支援が、どの様な社会貢献に繋がっているのか、この仕事が如何に社会的使命や責任を全うできる素晴らしい仕事であるのか、そのビジョンを示すことなくして福祉専門職の育成は出来ないと自身は考えます。「教育とは理想を語ることである・・・」。私の周囲にいる古参者の教えです。




※1 厚生労働省「介護福祉士養成課程における教育内容等の見直しについて」
※2 朝川哲一氏『改訂福祉職員研修テキスト 指導者編』全国社会福祉協議会P.98 2009年1月





『まちづくりとしての小規模多機能ケア』

2011/09/30 12:00:00  地域密着型サービス

『小規模多機能ケアの可能性』

9月5日から韓国へ、医療・福祉事情視察研修に行ってまいりました。詳細はまたご報告申し上げます。また長い文章になりそうです。
 今まで連載してきた『まちづくりとしての小規模多機能ケア』ですが、この度はその総括のお話をさせて頂きます。

 地域密着型サービスの運営目的を一言で言い表せば、それは地域ケアの実践となるかと思います。2012年の介護保険制度改正を意識すれば、それを地域包括ケアと言い換えても良いかも知れません。地域包括ケアは一般に、「地域住民が住み慣れた地域で安心して尊厳あるその人らしい生活を継続することができるように、介護保険制度による公的サービスのみならず、その他のフォーマルやインフォーマルな多様な社会資源を本人が活用できるように、包括的および継続的に支援すること」※1と定義されているものであり、利用者の生活支援を専門職のみで行う視点ではなく、地域の企業・商店・住民をも巻き込んだ形で展開されていくべきものであると明示されています。そのことを通じて、地域住民の理解や協力を促進し、その意識の変革をも試みる実践です。
生活支援における「生活」は本来非常に幅広いものであり、福祉や介護の専門職だけでは到底守れるものではありません。そのことの限界をしっかりと認識した上で、他分野における専門職及び地域住民との連携をもって利用者の支援を行う視点が今まさに求められているのでしょう。

 連載中お示しさせて頂きました様に小規模多機能型居宅介護(以下「小規模」)のケアマネジメントには、見守りや軽微な家事支援等を地域住民に依頼することで、利用者の生活の質向上と事業所運営の安定化を図る事が出来る素地があります。地域の絆においても、独居世帯・高齢者のみの夫婦世帯・多くの問題を抱えた世帯に属される利用者の支援に際しては、なるべく多くの地域住民の協力を要請した上で行うことにしています。

 また、地域ケアの視点で事業所の運営を鑑みれば、「徘徊」時見守りや、災害時の協力等を住民から得る事ができ、事業所運営の安定化にもそれが寄与することに繋がります。私たちの事業所では、お一人で外出された利用者を事業所までお連れ下さる住民や、職員に知らせに来て下さる住民は決して珍しくはありません。

 かてて加えて、地域ケアは対象者を限定しない共生ケアの視点も有しており、高齢者に限定しない支援機能を保持することによって、地域の多様なニーズに可能な範囲で対応できる様になり、やがてそれが地域住民との信頼関係の構築へと繋がっていくことでしょう。地域の絆各事業所においても、不登校・発達障害・触法といった課題を抱えている児童の受け入れや、障害を持たれた方の就労訓練の場として、「小規模」が地域に機能している姿を報告させて頂きました。

 如上の体験的学習を通じて地域住民に意識の変革を促進する可能性も地域ケアは秘めており、地域ケアの実践を突き詰めるとそこには、誰もが自分らしく安心して暮らせるまちづくりに行き着くことも理解されます。利用者の日常生活圏域内で、その居宅での生活に対し、「通い」「訪問」「宿泊」「ケアマネジメント」の機能を臨機応変に組み合わせて支援を行う「小規模」には、この地域ケア実践の素地があると確信しております。

 地域の絆の実践の中で、その推進力となる姿勢は、「とにかくやってみる」というものでした。地域の要援護者を地域住民の協力のもと支え合っていく実践は、口で言うほど簡単なことではありません。そのためには、日々の地域住民との交流が欠かせません。悩むべきは、何を手掛かりに交流すれば良いのかにあるのではないでしょうか。よく地域住民のニーズに応じた実践が取り沙汰されますが、そんなものは端から知る由もありません。ましてや、コミュニティアセスメントという実践的概念が確立されている様子もないのです。その中にあっては、一人の住民のニーズからでもいい、まずは暫定的にニーズを捉えて、とにかくやってみるという姿勢が欠かせないのではないでしょうか。

 地域の絆では、事業所ごとに年3回のイベントの運営を行っていますが、活動する中で、―嗣影瓜里慮鯲が出来ていない、∪ぢ經屬慮鯲が出来ていない、子どもの育成に必要な地域活動がない、といった形で捉えるニーズが変遷しております。対人援助におけるニーズも同様、大切なのは初期のアセスメントではなく、実践の中での関わりとしてのモニタリングや再アセスメントにあるのではないでしょうか。ニーズは常に流動的で可変的なものなのですから。

 であればこそ、捉える事の出来ないニーズの把握に紆余曲折する前に、地域に実践を「投げかけていく」ことから始めるべきでしょう。できない理由を考えて何もしないのではなく、気軽な気持ちで仕掛けてみることが地域交流の第一歩なのだと私たちは理解しております。

 それが、連載でもご紹介したペットボトルのキャップ回収であったり、子どもを対象にした書道・茶道等の教室、子ども会の会議場としての事業所の提供、広報誌作成における住民の参画等の実践に該当します。何でも結構です。地域に投げかけて、その反応を見ながら次に投げるものやタイミングを計りながら、また次を投げかける。その様な実践が求められているのではないでしょうか。

 もちろん志なく、無造作に投げかけてもそれは決して響くものではないでしょう。私たちがどのような姿勢や思いで地域住民と向き合っているのか。そのことは絶えず問いかけられていることでしょう。「小規模」には素晴らしい「素地」があることを2年6か月の連載を通じてお伝えしてきたつもりです。しかしながら、その「素地」を生かすも殺すもそれは、私たち実践者の姿勢や取り組みに依るものと言えます。


※1 財団法人 長寿社会開発センター『地域包括支援センター業務マニュアル』P.9 2010年3月


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中島康晴 特定非営利活動法人 地域の絆 代表理事
1973年10月6日生まれ。大学では、八木晃介先生(花園大学教授・元毎日新聞記者)の下、社会学を中心に社会福祉学を学ぶ。巷で言われる「常識」「普通」に対しては、いつも猜疑心を持っている。1億2千万人の客観性などあり得ない事実を鑑みると、「普通」や「常識」は誰にとってのそれであるのか、常に思いを巡らせておく必要性を感じる。いわゆる少数派の側から常に社会を捉え、社会の変化を促すことが、実は誰もが自分らしく安心して暮らせる社会の構築に繋がると信じている。
主な職歴は、デイサービスセンター生活相談員、老人保健施設介護職リーダー、デイサービス・グループホーム管理者。福祉専門職がまちづくりに関与していく実践の必要性を感じ、2006年2月20日特定非営利活動法人地域の絆を設立。学生時代に参加した市民運動「市民の絆」の名前をヒントに命名。
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