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NPO法人 地域の絆

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中島康晴

地域の絆 代表理事 中島康晴

経済指標の限界証明

2011/12/07 12:00:00  社会福祉
サービス付き高齢者住宅のリビング。こんなに素敵なところなら、是非私が・・・。


 最近は結構忙しく本ブログの更新も等閑の状況です。そのような状況下においても、ブログの更新を迫られる事態が発生しました。日本経済新聞はあまり読む機会がありませんが、出張先のホテルでたまたま目にした記事が原因です。

 12月4日付のその社説によれば、「審議会(社会保障審議会介護保険部会)は両論併記ではあるが、介護サービスの必要性が低い人の自己負担を増やすことや介護計画作成の有料化などは先送りし、大企業とその従業員に負担増を求める方向だ。(中略)働く人の処遇改善は大切だが、事実上、赤字国債で手当てしている現状は改めるべきだ。介護施設などの収益は改善している。介護報酬の引き上げよりも、事業者の経営努力で対処すべきではないか。
 介護保険制度改革は、来年の通常国会へ提出する法案に何を盛り込むかが焦点になる。自己負担も含めた介護保険の総費用は2000年度の3.6兆円から11年度当初予算では8.3兆円になった。こんな状態では消費税を上げても制度を持続させられない。まずは徹底した効率化が必要だ。
 軽度者の利用が多い生活援助サービスは、掃除や買い物の手伝いなどが大半だ。こうしたサービスは保険の対象からはずすべきだ。すぐに無理なら将来の廃止を前提に、軽度者の自己負担を1割から2割に上げ利用の抑制を図る必要がある。一定の所得がある人の利用料も上げていい。介護計画作成も有料にして、利用者にコスト意識を持ってもらう必要がある」※。

 社説、つまりこの新聞が、誰の側に立ってジャーナリズムの実践を展開しているのかは明白です。

 2007年度の有効求人倍率は全職業では、0.97でしたが、介護業界は2.10を標しています。同じく2007年度のデーターでは、全労働者の平均給与額は、男性が5,118,800円で女性が3,276,800円でした。それに比べ、福祉施設介護職の男性の平均給与額は3,077,400円、女性は2,771,200円です。またホームヘルパーの男性は2,782,700円であり、女性は2,632,800円でした。これらは厚生労働省のホームページからシロウトでも抽出できるデーターです。経済は数字が命だと認識しておりますが、この事実をどう捉えれば如上の論調になるのか理解に苦しみます。産業界も不景気で給与額が下がっているので、介護職の給与額はそれに比べて然程悪くは無いとの意見も聞きますが、事実誤認も甚だしく、感情論で数字を見てない方々の迷言でしょう。

 現場を担っている私にとってみれば、介護保険制度そのものが万能ではなく、利用者の生活支援に十分対応できていないと痛切に感じている毎日です。介護保険制度の限界を、インフォーマルな社会資源を発掘・創出しながら、それを利用者の支援に繋げて行くことで補っているのが関の山で、福祉専門職は少ない社会資源の中で日々もがき苦しんでいます。

 人の生活は質的にも時間的にも幅広く、介護だけで守れるものでは到底ありません。家事等の生活支援を介護保険制度から外すことは看過できたとしても、では誰がそれを支えるのか、その受け皿論も無いまま切り捨てるのであれば、これは弱者切り捨ての批判を逃れることが出来ない行為となります。この社説はそのような論調に拠っているのです。

 当然にして日本は福祉国家ではありませんが、北欧を代表する福祉国家の特徴は、経済状況が悪化しても社会保障費を担保する姿勢にこそ存在します。事実、一昨年3月に訪問したスウェーデンのソレンチューナ市の行政職は、はっきりと私たちにその姿勢を示されていました。医療や福祉、年金と言ったものは、人が生きていく上で、空気や水と同様に重要なものです。その空気や水を捨て去れば、やがて社会はどうなるのか、推して知るのは子どもにでも出来るはずです。なぜそれができないのか、私は不思議でなりませんでしたが、本社説を拝見して少しわかった気がします。その意味において、本社説は丁度良い“教材”と言えるでしょう。

 それは経済指標のみで社会を捉えることによる限界です。経済指標に焦点化して社会を捉えてもそれは、一部であって全てを捉えたことにはなりません。自明の理ですが、そのことに気付いていないことが病理であり、不幸を招いているのではないでしょうか。

 現在の私の経営哲学の要諦は、「情けは人のためならず」です。自分一人が良くなればと思って行動すればするほど、“利益”は遠のいて行くものです。過日訪れた東北の被災地で、集落の中で一軒だけ奇跡的に無傷であったご自宅があり、その住民とお話をしたことがあります。私がつい「御無事で良かったですね」と配慮に欠ける発言をしてしまった際、「自分の家だけが無事で、何一つ良いことなんてない」と涙を浮かべておっしゃられたのが今でも脳裏に焼き付いています。同じ社会を構成している以上、自分の幸福と他人の幸福は常に何処かで繋がっているのです。

 一部の“不幸”な人たちのためではなく、今は“不幸”ではない私たちのために社会保障は存在します。そして、その存在をうまく活用することにこそ、経済の活性化を見出すことが出来ると考えるのが私の持論です。日本の介護技術は世界に誇れるレベルに到達しつつあります。これを“輸出”し、福祉後進国の援助を積極的に展開することをもって、経済活性化の“武器”にすることも可能でしょう。経済にとって、社会保障は足枷ではなく、ピンチをチャンスに変える起爆剤の要素をもっていると私は認識しています。

 社会構造や、社会政策等、そのマクロの視点で社会を捉え、その上で、数々のミクロな事象を分析することがジャーナリズムには求められています。経済という指標一本でのみ捉えた視点は脆弱と言わざるを得ません。今求められているのは、マクロの視点で社会を捉える力なのかも知れません。そして、それはそのままソーシャルワークに今求められている視点でもあるのです。


※『日本経済新聞』「社説 介護保険は給付抑制と効率化に切り込め」2011年12月4日



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中島康晴 特定非営利活動法人 地域の絆 代表理事
1973年10月6日生まれ。大学では、八木晃介先生(花園大学教授・元毎日新聞記者)の下、社会学を中心に社会福祉学を学ぶ。巷で言われる「常識」「普通」に対しては、いつも猜疑心を持っている。1億2千万人の客観性などあり得ない事実を鑑みると、「普通」や「常識」は誰にとってのそれであるのか、常に思いを巡らせておく必要性を感じる。いわゆる少数派の側から常に社会を捉え、社会の変化を促すことが、実は誰もが自分らしく安心して暮らせる社会の構築に繋がると信じている。
主な職歴は、デイサービスセンター生活相談員、老人保健施設介護職リーダー、デイサービス・グループホーム管理者。福祉専門職がまちづくりに関与していく実践の必要性を感じ、2006年2月20日特定非営利活動法人地域の絆を設立。学生時代に参加した市民運動「市民の絆」の名前をヒントに命名。
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