「通って、泊まれて、家にもきてくれる」「住み慣れた家で24時間365日の安心」「臨機応変な対応、自立支援、医療の安心」特定非営利活動法人 地域の絆

Googleサイト内検索
NPO法人 地域の絆

NPO法人 地域の絆

中島康晴

地域の絆 代表理事 中島康晴

「ケアメン」考

2012/09/27 00:32:27  社会福祉

 地元福山市の依頼を受けて「男性のための介護セミナー」の講師をさせて頂きました。先月終わりから今月頭にかけての2週連続の講座です。「男性のための…」つまり男性だけを対象にした非常に珍しいセミナーでした。主催は福山市男女共同参画センターですので、その意図を踏まえて講義に臨みました。本セミナーを担当させて頂くにあたって多くの気づきと学びがありましたので、ここで少し叙述しておきたいと思います。


 男性介護者の現状
 在宅介護者の特徴として言われ続けているのは高齢化の問題です。老老介護は今や普遍化しつつあり、そこに認知症の方が認知症の方を介護する「認認介護」の問題が生じています。在宅介護者の内、70歳以上の占める割合は3割を超えていると言われています※1。そこに、男性介護者の問題が加わってくるわけです。NHKによれば、「ケアメン」は全国で120万人に迫ると言われています。そこでは、在宅介護者の3人に1人は男性であるとのデーターが示されています※2。つまり、在宅介護者の高齢化と同時に、男性化が顕著に進んでいるとの認識が必要なのです。我らが福山市の人口をもとに単純に按分すると、約4,400人の男性介護者が市内に在住している計算になります。
 「イクメン」も「ケアメン」もどうやら広島県が発祥の地だそうですが、そもそも、なぜに特殊なこととして固有名詞化する必要があるのでしょうか。穿った見方をさせてもらえば、それだけ介護も育児も女性に押し付けてきた社会構造が未だ普遍化していることの現れであると言えるのかも知れません。「イクウーマン」や「ケアウーマン」とは言わないでしょう。それは、至極当たり前のことであって、であれば特に固有名詞化する必要がないということです。そこに、育児・介護・家事は女性が担うべきであるというジェンダーが存在することが見て取れます。

※1 「家族間で介護する世帯のうち、高齢者が高齢者を世話する70歳以上の「老老介護」世帯の割合が初めて3割を超えたことが、厚生労働省が9日公表した07年国民生活基礎調査で分かった」。 毎日新聞 2008年9月9日
※2 NHKニュース おはよう日本 2012年6月25日(月)


男性介護者の課題
 本セミナーは平日の日中に開催されました。地元のブロック紙でも取り上げられましたが、参加者数は思ったより伸びませんでした。男性限定で、日中の昼間ですから参加が難しかったのかも知れませんし、講師の知名度が希薄だったこともあるでしょう。しかし、この様な場に対する参加者が少ないことも男性介護者の特徴であると捉えた文献も見受けられます。2006年の内閣府の調査によれば、「親しい友人がいない男性の単身高齢者は41%と、女性の2倍である。近所づきあいがない男性の単身高齢者は25%、これは女性の3倍以上である」とされています※3。
 また、ある調査結果では、「加藤によれば、1998年から2003年までの介護保険導入前後の6年間に起こった介護殺人の件数は198件、死亡者数は201人である。加害・被害の関係をみてゆくと、息子が加害者の場合が最も多く全件数の37.4%、次いで夫が加害者の場合であった(34.3%)。加害者199人中、男性は151人、女性は48人で、男性が加害者の4分の3を占めた」※4とあります。全体で3分の1の男性介護者が、介護殺人の加害者として全体の4分の3を占めているわけですから、いかに男性介護者が加害者になり易いのかが理解されます。2010年度の養護者による虐待の内訳も、加害者は「息子」が42.6%で最も多く、次いで「夫」が16.9%でした※5。また、本文献では、孤独死と自殺の発生率も男性の方がより高いことが示されています※6。
セミナー開始の2週間前いみじくも宇都宮市内で起こった介護殺人の概要は以下の通りでした。
 「宇都宮市宮の内のアパートなどで15日夕、50〜60歳代の兄弟3人の遺体が見つかった事件で、自ら首をつって死亡したとみられ、最も重い『要介護5』の障害を持つ2人を介護していた男性は、今年5月末に36年間深夜勤務のトラック運転手として勤務していた運送会社を退職していた。職を失った中、病院、施設への送り迎えや料理、洗濯などをこなし、献身的に介護していた生活実態が浮かび上がってきた。
 県警によると、3人はこの部屋に住む宇賀地美知男さん(55)、同市鶴田町、正二さん(67)、同市雀の宮、保夫さん(57)。美知男さんは室内から、正二さんは車内からそれぞれ首を絞められた状態で見つかり、保夫さんはベランダの物干しざおに掛けたロープを室内に引き込み、首をつった状態で死んでいた。司法解剖の結果、死因は3人とも頸(けい)部圧迫による窒息死。
 保夫さんが勤めていた運送会社によると、1976年に同社に入社。深夜勤務のドライバーとして働き、近年はグループ長や新人の指導役なども任されていた。しかし、3年ほど前から物損事故を繰り返すようになり、今年5月にも物損事故を起こした。『運転手出来ないな。おれもダメかな』などと、上司に打ち明けたという。結局、事故後『倉庫の作業員でもあれば考えてくれませんか』と配置換えを申し出たが、会社側から『仕事が無い』と告げられ、自ら退職した。上司は『今考えると、頻繁な自己は介護の疲れがあったのかと思う。かなり追いつめられていたんだろう』と声を落とした。
 また、関係者らによると、保夫さんは97年、現在住んでいるマンションに引っ越し、しばらくすると母親と正二さんを呼び3人暮らしになったという。ところが99年頃、正二さんが脳梗塞を患った。数年前には母親が死亡し、2010年に正二さんを市内の特別養護老人ホームに入所させたという。
 同ホームによると、正二さんには左半身のまひのほか、言語障害があり、高血圧と糖尿病も併発していたという。月1、2回の見舞いには保夫さん以外が来たことはなく、保夫さんは月7、8万円の施設使用料を支払っていた。15日は、午前中に保夫さん『病院に連れて行く』と正二さんを連れ出したが、病院から午後1時過ぎに『まだ来ていない』と問い合わせがあり、携帯に電話しても電源が切られた状態となった。
 同じく要介護5の認定を受け、ほぼ寝たきりの状態だった美知男さん宅には、日に3回ヘルパーを頼んでいたが、保夫さんも週末には必ず料理や洗濯、掃除などをしに通っていた。美知男さんのアパートのオーナー男性によると、保夫さんはスーパーの買い物袋などを持って一人で訪れていたという。男性は『家賃の滞納やトラブルも一度もなかった。兄弟も多かったと聞くが、一人で頑張っていたんだろう』と肩を落としていた。
 県警は現場の状況などから無理心中の可能性が高いとみて調べを進めている」※7。
 この記事を読むだけでもここには次の登場人物(機関)が存在します。ざっと挙げて、職場(運送会社)・特別養護老人ホーム・アパート大家・病院・ホームヘルパー事業所・居宅介護支援事業所ぐらいでしょうか。これらの登場人物はなぜ、加害男性を支援できなかったのか?また、加害男性はなぜ、助けを求めなかったのでしょうか?後悔が残る事件であると認識します。
 上野千鶴子氏によれば、介護とは、「依存的な存在である成人または子どもの身体的かつ情緒的な要求を、それが担われ、遂行される規範的・経済的・社会的枠組みのもとにおいて、満たすことに関わる行為と関係」であり、であればこそ「ケアされる者とケアする者双方の満足を含まなければならない」※8と述べています。介護は行為であるのみならず、そこには関係性が存在するとのことです。狭義で言えば、「介護をする側」と「介護をされる側」の関係でしょうか。つまり、良い介護とは、「介護をされる側」のみならず、「介護をする側」も幸せでなければならないと説きます。であれば、「介護をする側」が幸せになれる介護とは、「介護する側」が誰かに支えられている介護であると言えそうです。介護は一人でするものではない、出来ないことはもはや自明の理となっています。であれば、周囲のサービスや社会資源に支えられなければ良質な介護は成立しないとも言えます。皆さんの周囲には、その様な支えがあるのでしょうか。

※3 津止正敏氏・斎藤真緒氏『男性介護者白書 家族介護者支援への提言』かもがわ出版P. 24 2007年9月
※4 津止正敏氏・斎藤真緒氏『男性介護者白書 家族介護者支援への提言』かもがわ出版P.14 2007年9月
※5 厚労省「平成22年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」平成23年12月6日
※6 一人暮らしの高齢者は女性が8割以上と多いが、大阪の泉北ニュータウンでは、2003年から2006年までの孤独死110人中、男性が73人(66%)を占めるという報告。
1998年以降、毎年3万人を超える自殺者人口問題でも男性の課題がある。2005年には、男性の自殺者は2万3540人と、女性の9012人の2.7倍。うつ病の有病率は女性が高いにもかかわらず。
津止正敏氏・斎藤真緒氏『男性介護者白書 家族介護者支援への提言』かもがわ出版P.23 2007年9月
※7  2012年8月17日 読売新聞
※8 上野千鶴子氏『ケアの社会学』太田出版P.39・7 2011年8月


ジェンダー論
 今回のセミナーは男女共同参画センターが主催でしたので、ジェンダーという視点を意図して資料を作成し、お話をさせて頂きました。登壇する側が、この際最も学んだ点は次の点にあります。―――我が国の社会一般的にはそれが女性に不利な社会構造になっているが、こと介護においては男性に不利に機能している―――。この世に万能な機能など存在しないのですから、これは当然の帰結であると言えます。そこから見えてくるのは、女性に介護を押し付けてきたしわ寄せが男性に跳ね返ってきているという現象でした。経済至上主義の自由競争社会の中で、ジェンダーは男性に優位に機能してきましたが、そうではない人の人権を守る行為としての介護の分野においては、男性機能はその強みを生かすことが出来ないようです。
 やはり、ここで大事になってくるのは、「普通」や「常識」を疑う視点ではないでしょうか。「男はこうあるべきだ」、「女はこうだ」、「介護は素晴らしいものに決まっている」、「介護は身内がやるべきだ」と言った「常識」から解き放たれて、自分自身は個別にどうあるべきかと向き合うことから始めなければ男性介護者の苦悩は軽減しないものと思われます。育児・家事・介護は女性の仕事であると普遍化させることによって、結果としてそれは男性自身の自立をも妨げてきたと言えるのでしょう。
 介護においては、望む望まざるとに拘わらず女性が担ってきた歴史と文化があります。よって、女性にadvantageがあると言えます。ある場面で、男性優位な構造をつくることで、ある場面で男性に不利な構造をつくることにそれが繋がることを、男性介護の現場は熱く語っているようにも見受けられました。


ケア論
 良質なケアとは、「ケアする側」にとっても幸福感を感じ得るものでなければならない。まさにその通りではありますが、前出の上野氏によれば、そこには「非対称性」が存在すると言われています。
 「ケアする側がケア関係から退出するという選択肢をつねに持っているのに対し、ケアされるニーズを持っているケアの受け手は、この関係から退出することができない(退出することは生命の危険を意味する)からである。(中略)
ケアは与え手と受け手の相互行為とはいえ、決して互酬的でも対等な交換でもない。互酬性を持たない交換は、その与え手と受け手とのあいだに債権・債務関係を発生させる。その結果、社会的にはケアの与え手よりも受け手の方が弱者となる。(中略)そのあいだに対等性を担保するのが、契約関係であり、金銭的な報酬である。ケアの有償制は、ケアする側とケアされる側の非対称性の緩和のために必要とされる。」※9。非対称性は同時に非対等性を意味するのだと考えます。この点には強く留意をする必要がありそうです。また、であればこそ、対価を得てそれを業としている専門職に介護を委ねることはやはり悪いことではありません。

※9 上野千鶴子氏『ケアの社会学』太田出版P.63 -64 2011年8月


まとめ
 この度は、男性介護者セミナーの講師を仰せつかった際の気づきについて叙述させて頂きました。男性介護者に焦点化した学びを得る機会に恵まれたこと厚く御礼を申し上げたいと思います。と同時に、男性介護者、女性介護者、家族介護者、施設介護者等のカテゴリーに分けて考えることの不毛さも感じずにはいられません。介護者も幸せになることのできる介護が、すなわち良質な介護であるとするならば、そのような施策の充足が必要不可欠であると強く言及しておきたいと思います。上野氏によれば、女性が子育てによって機会損失を被る「ケアペナルティ」の経済的損出は「1億2000万円」※10であるとのことです。私たちは、男性だの女性だの、専門職だのを議論する前に、あらゆる介護者の幸せを一方では提唱すべきでしょう。
 税と社会保障の一体改革。ただ単に消費税増税法に骨抜きにされたこの増税が、真なる社会保障の充足に結びつくことは当然の帰結としてあり得ないでしょう。しかし、であっても何とかしなければなりますまい。医療と同様に、福祉・介護も人の生活と命を守る社会構造の重要なファクターであることは言うまでもありません。その支え手を遺棄する社会構造があるとすれば、その構造を作っている人間が誰なのか。その姿が見えていなくては、ソーシャルワーカーとしての社会変革は実現し得ないものと考えます。

※10 上野千鶴子氏『ケアの社会学』太田出版P.63 2011年8月



コメント

コメントはありません
中島康晴 特定非営利活動法人 地域の絆 代表理事
1973年10月6日生まれ。大学では、八木晃介先生(花園大学教授・元毎日新聞記者)の下、社会学を中心に社会福祉学を学ぶ。巷で言われる「常識」「普通」に対しては、いつも猜疑心を持っている。1億2千万人の客観性などあり得ない事実を鑑みると、「普通」や「常識」は誰にとってのそれであるのか、常に思いを巡らせておく必要性を感じる。いわゆる少数派の側から常に社会を捉え、社会の変化を促すことが、実は誰もが自分らしく安心して暮らせる社会の構築に繋がると信じている。
主な職歴は、デイサービスセンター生活相談員、老人保健施設介護職リーダー、デイサービス・グループホーム管理者。福祉専門職がまちづくりに関与していく実践の必要性を感じ、2006年2月20日特定非営利活動法人地域の絆を設立。学生時代に参加した市民運動「市民の絆」の名前をヒントに命名。
カテゴリ
<<2012年09月>>
MonTueWebThuFriSatSun
12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
最新エントリ
最新コメント
ブログリスト
当サイトで使用されている全ての画像および文章を無断で複製・転載・販売することを堅く禁じます。
すべての内容は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。
Copyright 特定非営利活動法人 地域の絆 All Rights Reserved.

▲