「通って、泊まれて、家にもきてくれる」「住み慣れた家で24時間365日の安心」「臨機応変な対応、自立支援、医療の安心」特定非営利活動法人 地域の絆

Googleサイト内検索
NPO法人 地域の絆

NPO法人 地域の絆

中島康晴

地域の絆 代表理事 中島康晴

クライエントの顧客化とソーシャルワークの危機

2013/07/06 16:34:55  社会福祉


 昨日の朝刊にて、有料老人ホームの紹介業者の紹介のなされる記事を拝見しました。そして、その相談料は多くは無料でなされており、紹介を受けた施設が紹介業者に紹介料を支払う仕組みなのだとか。気になる個所を少し引用してみます。

「ホームの経営者らでつくる高齢者住宅経営者連絡協議会(高経協)が、加盟社に紹介業者との付き合いについて尋ねたアンケート(45社が回答)」によると、「87%のホームが紹介業者と連携していた」。
「高経協は『つきあいの程度はホームによって差があるが、紹介業者は、ホームにとって「なくてはならない存在」になっている』」と発する。
紹介料は、「1件当たり30万円〜40万円が最も多く、10社は『100万円以上』と回答していた。ホームの入居金は数百万円〜数千万円と幅広いが、『紹介料』にも大きな幅があるようだ」。
「『キャンペーン』と称し、ホームが一定期間、自分のところに優先的に紹介してもらえるように、紹介業者に割り増し紹介料を支払う慣行もあるという」。
コンサルティング業者によれば、「『経営に余裕がなくなり、効率を考えて社内に営業部隊をおかず、外部の紹介業に頼らざるを得ないホームが増えている』」。

 当然ながら、これは私たちソーシャルワーカーとしては警鐘を鳴らすべき事象でしょう。つまり、クライエントのニーズではなく、割増賃金を支払ってくれる施設への紹介を優先するというシステムが罷り通っているのです。また本紙にもあります様に、紹介料は当然クライエントの負担に帰結するわけですし、そこからはこのような事態を静観している国交省や厚労省の在り方を含め公的責任の減退の姿勢もうかがい知ることが出来ます。また、施設側はその費用も含めて廉売を行う必要があるため、さらに競争原理は激しくなる悪循環が生じる恐れも推測されます。また、クライエントのニーズと社会資源を繋いだり調整するといった本来の専門性の劣化が生じると共に、そもそも専門職が必要なくなる時代に突入したのかも知れませんね。利用者中心のニーズを把握するための綿密なアセスメントなどは、その効率性からは必要ないということなのでしょう。

 このような事象の原因としては、大きく次の二つのことが挙げられます。社会福祉に対する公的責任の減退、そして、競争原理に晒された施設経営の効率化。少し乱暴な言い方をすれば、小さな政府と経済至上主義の影響がここに見られると言っては言い過ぎでしょうか。

 さて、ここで予てより考えていたことが彷彿されます。社会福祉の対象者のことを、「利用者」と呼び、「当事者」と呼び、「ケース」と読んだり、「クライエント」と呼ぶことは周知の事実です。全ての呼び方に問題があるものの、私は無難にクライエントと呼んでいます。しかし、「お客様」や「顧客」と呼ばれだしたのは少なくとも介護保険制度が導入されてからのことではないでしょうか。

 クライエントの主訴がそのまま、私たちの捉えるところのニーズではありません。クライエントが表現できない思いや考えもニーズであることが多く、また訴えられる内容がニーズでないこともあり得ます。私たちの捉えるニーズはとは、斯様に専門性をもって押さえていかなければ捉えきれるものではないのです。そこが、産業界におけるサービス業のそれと我々のサービスの分水嶺となっています。産業界におけるサービスの基本は顧客の求めに応じて、求められたものに対してのみサービスを提供すればよい。しかし、私たちは個々の生活に対して専門的見地からアセスメントを実施し、時にクライエント自身が気づいていないニーズに応じたり、また、クライエントの求めているものとは別のサービスをクライエントと共に検討することもあり得るのです。その意において、ソーシャルワークは、コストコントロールを結果として導き出すこともあれば、その逆に、クライエントのニーズを起点に公的責任を追及する側面も有した専門性の総体であると言えます。

 斯くの如く、社会福祉実践には、専門性とその実践に纏わる時間と労力が不可欠です。しかし、我が国においては介護保険制度創設以降、いや、1990年代後半の社会福祉基礎構造改革以後、クライエントを顧客と捉える傾向が顕著に見られるようになりました。「利用者」を「消費者」と捉えだしたと言ってもいいかも知れません。「顧客獲得」における競争原理の下、効率化が優先される中、その手間と時間を要する真なる社会福祉実践は益々困難な状況下となってきました。そのことによって、サービス提供者毎の個々の技術は精巧化された一方、専門職としての価値・拠り所は益々希薄化しているように見受けられます。また、技術革新はなされているものの、価値を失った専門職は専門職たり得ず、その意において1990年代後半以降の社会福祉専門職の専門性は実はその劣化の一途を辿っているのではないかとの疑いが頭から離れることがありません。

 即ち目的・価値・知識・役割・機能・技術等の総体としての専門性のうち、最も重要な目的や価値が希薄化しているのが現下の社会福祉専門職の有り様ではないでしょうか。つまり、市場の競争原理下で生き残るために勝ち抜くためにその機能や役割を担い、知識と技術を駆使するのがその姿であり、そこにクライエント中心主義という目的と価値を喪失しているのであれば、それはもはや社会福祉専門職ではないということになるのでしょう。

 私たち社会福祉専門職の取り巻く社会環境は、斯くの如き、その本来の専門性を発揮できない状況にあります。そのことに日々自覚しながら、自戒の念を持ちながら、その揺らぎの中で仕事をすることが私たちひとり一人に今求められているのだと思っています。無論、福祉経営者たる若輩もその揺らぎの中にいます。そして、これは個々の専門職だけの問題ではなく、クライエントの権利擁護の視点に立ったソーシャルワーカーにおける政策提言の中核的課題ともなると断言できます。



コメント

コメントはありません
中島康晴 特定非営利活動法人 地域の絆 代表理事
1973年10月6日生まれ。大学では、八木晃介先生(花園大学教授・元毎日新聞記者)の下、社会学を中心に社会福祉学を学ぶ。巷で言われる「常識」「普通」に対しては、いつも猜疑心を持っている。1億2千万人の客観性などあり得ない事実を鑑みると、「普通」や「常識」は誰にとってのそれであるのか、常に思いを巡らせておく必要性を感じる。いわゆる少数派の側から常に社会を捉え、社会の変化を促すことが、実は誰もが自分らしく安心して暮らせる社会の構築に繋がると信じている。
主な職歴は、デイサービスセンター生活相談員、老人保健施設介護職リーダー、デイサービス・グループホーム管理者。福祉専門職がまちづくりに関与していく実践の必要性を感じ、2006年2月20日特定非営利活動法人地域の絆を設立。学生時代に参加した市民運動「市民の絆」の名前をヒントに命名。
カテゴリ
<<2013年07月>>
MonTueWebThuFriSatSun
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031
最新エントリ
最新コメント
ブログリスト
当サイトで使用されている全ての画像および文章を無断で複製・転載・販売することを堅く禁じます。
すべての内容は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。
Copyright 特定非営利活動法人 地域の絆 All Rights Reserved.

▲