非常に短い滞在です。今日は午前中に、ソレンチューナ市における認知症グループホームに伺いました。と言いますか、そのつもりで伺ったのですが、直接見学できたのは、同じ建物の違うフロアにあるナーシングホームでした。しかし、その理由に重要な視点が存在しました。カルメン所長は、下記のように説明しました。
「訪問者を受け入れても良いかどうか、認知症の方は決められません。職員が勝手に判断するのは、利用者の個人の尊厳を侵すことになります。ナーシングホームの利用者には判断能力があるので、日本からの来所者を受け入れることにOKか張り紙と口頭で事前に聞いてみました。全会一致で承認をしてくださったので、本日皆さんを受け入れています。だから、皆さんの来所を、利用者は心待ちにしています。そして、皆さんは、利用者中で、既に有名人です」。
私たちは、実習生や、事業所見学者があることを事前に利用者に知らせているでしょうか?承諾を得ていますか?私は、改めて自問自答させられました。利用者の尊厳の、その重さ、その奥行きの深さにため息が出ました。
この施設は「リーベンバッケ」という名前で、「テーマボー」という民間法人が市の委託を受けて事業を運営しています。スウェーデンでは、民間の委託法人は全体の十数パーセントに過ぎないと文献では書かれていますので、日本にくらべそれほど多い割合ではありません。その中で、私は2つの質問を所長さんにさせていただきました。
一つ目は、日本のグループホームは「転居型」と「居住型」に分かれているが、スウェーデンにおけるグループホームはどのような方針で臨んでいるか尋ねました。「転居型」とは、ADL(日常生活動作)がほぼ自立されており、BPSD(認知症の方の行動・心理症状)が多くみられる利用者へのケアに特化した運営を行っているグループホームのことで、ADLが低下し寝たきり状態になった際は、それに特化したケアの実践ができる施設へ移っていただくことを前提に、運営をしている法人があること。一方、「居住型」はターミナルケアまで実施し、寝たきりになってもそのグループホームで暮らし続けるものであり、日本ではこの両者が混在化している旨も説明させていただきました。
それに対して所長は、―――人生の最後の場所としてのグループホームと考えています。私たちは、ADLの差は見ていないが、診断(前頭葉・脳血管性・アルツハイマー型等)の違いは見ています。また、場合によっては、「徘徊」(「無断外出」)の人は別の空間で対応することもあります。が、ADLの状況に応じて、グループを変えることは、利用者に良い影響を与えないと考えています。一つのグループに所属すると最後まで一緒のグループで対応します。入居者本人が安心して活動できることが大事であると考えるからです。
リロケーション(環境の変化による)ダメージに対する配慮や継続的ケアを非常に大事にされていることは、昨日の介護付き高齢者住宅を訪問した際も感じたことでした。そして、この答えからは、知識や技術よりも、価値や理念が最優先されていることを、一つの指標として導き出すことができます。専門職には、価値・知識・技術が存在すると言われていますが、その中でも、価値を何よりも重要視しているのがスウェーデンではないかと私は考えました。
続いての質問。テーマボーの実践は、聞けば聞くほど社会性の高いものでしたので、民間法人がなぜこの様な社会性の高い実践ができるのか。所長さんの見解をお伺いしました。
その答えを次の様にご教示くださいました。―――経営陣には、他の会社から集まった方が多いのです。また、行動科学の専門家からソーシャルワーカー、正看護師等様々な分野の専門家が集まっています。5種類の会社から集まって、新しいものをつくりだそうとしています。経営陣は、高齢者を価値ある存在と認識しています。社会性の高い実践をしているので、利益率は低い。また、必要以上に法人規模を拡張しようとは思っていません。法人規模が拡張すると品質管理が難しくなるからです。
なるほど頷けました。法人の理念が明確であり、その理念が末端まで浸透している様に見受けられました。質問とは関係ない所長さんからの説明の中で、テーマボーの理念のお話がありました。「テーマボーの理念とは、利用者の健康なところに焦点を合わせることであり、入居者の方それぞれが持っている機能をできるだけ維持することです」。経営陣の考えが、社会性の高いものであり、その理念が浸透していることが理解されました。そして、もう一つ重要な視点があります。「新しいものをつくる」ことです。他の法人では実践していない「新しい」取り組みを実践しているという自負感が、その実践をより尊いものに変えていくのではないでしょうか。
その様に考えると、地域の絆と何か似ているなあ、と感じました。法人の理念を何よりも大切にし、職員は頑張っています。そして、他の法人では実践できない「新しい」取り組みを目指していること。また、テーマボーは2年間で4つの事業所を立ち上げていますが、地域の絆は4年間で4つの事業所を立ち上げようとしています。だからこそ、所長さんは、「品質管理が難しくなる」と課題を述べられました。地域の絆でも、同様の課題が発生しています。また、法人幹部職員であるカルメン所長は、ソーシャルワーカーの資格を持っておられました。私と同様ソーシャルワークの視点が、そこにあるのではないかと推察されます。
スウェーデンにある民間法人と、日本にある民間法人における共通の課題を見ることができ、強い親近感を得て施設を後にしました。
集会室(ミーティングルーム)
カルメン所長の手作りシュークリーム
施設内には手すりはありません
地域の絆でも、各センター内に手すりは設置していません。
施設内のみならず、街中でも頻繁に見かけた歩行器
仕切りの無い、向かいの敷地に、他法人が運営している幼稚園がある
1F 地域交流スペース
3F ナーシングホーム 居室