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NPO法人 地域の絆

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中島康晴

地域の絆 代表理事 中島康晴

福祉・介護人材育成考��

2011/12/05 12:00:00  地域密着型サービス

やる気を引き出す指導法〜福祉専門職育成における要諦

この度、株式会社やさしい手の香取社長をはじめ幹部の皆様方には大変お世話になりました。厚くお礼申し上げます。
 職員の仕事に対する動機づけを維持・強化し、職場定着率を高め、更にそれが育成にも連動するといった少し“高尚”なお話をさせて頂きます。福祉・介護業界では職員の定着率の低さが問題として取り沙汰されています。厚労省の調査結果を大略で見てみますと、主な入職の理由は、「働きがいのある仕事だと思ったから」及び「自分の能力・個性・資格が活かせると思ったから」が大半であり、主な退職・転職の理由としては、「給与等の労働条件が悪いため」や、「仕事の内容がきついため」、「仕事にやりがいがない」、「職員間の人間関係が良くないため」が挙げられているようです※1。これは、「働きがい」のある職場であると認識して入職したが、実際に働いてみると「働きやすさ」と「働きがい」の無い職場であるとの認識に至り退職した事例が数多あることを物語っています。

 まずは少し「働きやすさ」と「働きがい」について考えてみたいと思います。このことを思い起こすと「ハーズバーグの動機づけ・衛生理論」が私の脳裏に浮かんできます。この理論では、「行動の動因は2つの欲求にもとづく」ことを前提としています。2つの欲求では、「第1の要因【衛生要因】」として「賃金や労働条件、人間関係、作業条件等の内容」に対する欲求を指し、「第2の要因【動機づけ要因】」として「やりがいのある仕事、自己成長、目標の達成、達成の承認、責任の増大など」に対する欲求を指すと言われています※2。私は端的に、「働きやすさ」が「衛生要因」、「働きがい」が「動機づけ要因」に其々関係することであると認識しているところです。

 であるならば「働きやすさ」の充足は、例えば、給与水準の向上や、残業時間の削減、有給休暇の取得のしやすさ、手厚い人員配置、福利厚生の充実といったものが挙げられるのではないでしょうか。また、「働きがい」の実感においては、人材育成システムの充実や、法人理念の明確化、所属意識の醸成、適切な権限移譲、福祉専門職としての矜持を持った実践が出来ること等がそれに該当すると思われます。

 ここで注目をしておきたいのは、むしろ「働きがい」の方です。「働きやすさ」を充実するためには法人や事業所独自の努力において、若干は対応できる部分がありますが、その全てにおいては範疇ではないと私は考えております。介護報酬にて、収入の大半はどの法人も同列の状況にありますので、このことに対する取り組みは、一法人・事業所では解決し得ない問題でしょう。だからといって、無論何もしないわけではありません。ただ、いくら努力を重ねても限界があると申し上げたいのです。では、「働きがい」の方はどうでしょうか。その多くは組織的・体系的な問題であり、こちらは法人・事業所努力で多くは対応が出来るものと考えています。「地域の絆」では、「働きやすさ」はもちろんですが、「働きがい」に最も焦点化した人材マネジメントを行っております。法人努力でどうにもならない要素が強い「働きやすさ」よりも、努力によって改善の余地の広い「働きがい」へのアプローチに力を入れているのです。

 多くの職員が求める「働きがい」の中核は、福祉専門職として社会性(社会に貢献すること)の高い実践ができることにあると私は考えています。利用者や家族、地域住民に喜んで頂ける実践がしたいと多くの職員は思っています。そのためにも、自身の専門性をより高めていきたいと。そのような社会的責任や使命感の高い仕事であるからこそ、給与水準が低くとも、労働条件が多少悪くとも、この仕事を選ばれているのだと私は認識しております。

 先ほど挙げた厚労省の調査結果を見ても、そのような動機で就職先を決めていることが読み取れます。また、退職の理由としては、給与等の労働条件の悪さや、人間関係の不味さ等が挙がってはいるものの、やはり仕事にやりがいが無いと言った声も多くある様ですし、一番気になるのは、どの項目にも該当しないその他の項目が一番高率であるということです。かてて加えて、仕事に対するやりがいや矜持が減退すると、金銭的価値を人は求めるのではないかと私は考えておりますので、入職時は「働きがい」を求めて、退職時は「働きやすさ」を求めて辞める構図には、当初の期待の裏切られた感覚が影響を与えているものと推察されます。つまり、多くの職員は、仕事に対する夢や誇りも持てないのなら、せめて、賃金等の処遇で補填してもらいたいという気持ちになるのではないかと考えるのです。

 2000年に介護保険制度が導入され、営利法人も非営利法人も同じ土俵で相撲を取ることが強要されました。その際、社会福祉法人等の非営利法人も、事業性(事業の継続・発展を求めるため収益を上げること)の強化を図ってきたように伺えます。利用者が何人利用して、いくら収入が入ると言った現実的な話が現場の中でも飛び交うようになったのは介護保険制度が導入されてからではないでしょうか。しかし、それは管理職と言われる人たちがしっかりと認識して舵を取ればよい話で、現場で利用者の直接ケアに携わっている職員には伝えるべき話ではないと私は思っています。それを多くの経営者は、現場の職員に求め出したのではないか。

 先ほど申し上げましたように、現場の職員の多くは、専門職としての社会性の高い実践を行い、利用者・家族・地域住民に喜んでもらいたいと思って必死に働いています。経営陣が出来ることは、その思いを大切にすることではないでしょうか。であるにも拘らず、多くの経営陣は現場に社会性ではなく事業性を求め過ぎているのではないかと考えます。それが、職員のモチベーションを下げ、離職率の上昇へと繋がる大きな要因としてあるものと認識しております。

 求人票を見る限り、この業界の給与水準が低いことは一目瞭然です。それでもこの業界の求人に応募し、入職する職員の動機は、給与等の処遇にはないはずです。処遇は良くないが、社会性の高い業務内容に魅力を感じ入職しているのです。であるのに、職場では社会性の高い取り組みが推奨されず、事業性のことばかりを追求される。そのことで、モチベーションを下げて離職する人が多いのではないかという仮説を立てているのです。要するに、給与も安く、夢や希望も感じられないのなら辞めた方が良いと判断されるのでしょう。福祉専門職としての夢や理想、希望を見ることが出来ないのなら、この仕事には何のメリットも見出すことが出来ないのではないでしょうか。

 では、社会性の高さを感じる仕事はどの様になされるのでしょうか。その要諦は、ビジョンを明示することです。目の前の認知症高齢者へのケアが、ご本人はもとより、ご家族や地域にどのような幸福をもたらしているのか、そのことを見せていくことが求められています。また地域住民の理解や協力を促進することが、目の前の利用者の幸福に如何に繋がるのかを見せるのも然りです。

 過日拝読した姜尚中氏の著書においても次のように記されています。
――――「経営者は、これまでのような金融工学的なマネーゲームでは、企業活動の意味を語れなくなったのです。
こうした風潮にともなって、いま、アメリカのビジネススクールなどでは、従来型に代わるテーゼを見つけようと必死になっている気配が見えます。その彼らも、まだ『これだ!』というストーリーは見つけきれていないようですが、こう言いはじめたことだけは確かです。
『なぜ、何のために働くのかという意味づけを、社員にきちんと示せないリーダーは失格である』と。たとえば、『いま、ここでこうやって作っている製品が、十年後の豊かな森林を作るのですよ』とか、『いま、この労働で流している汗が、病気のおじいちゃん、おばあちゃんの心の支えになるのですよ』とか、そのようなビジョンを、フォロワーが納得できるかたちで示せなければならないのです」※3。経済における成長戦略に陰りが見え始めた昨今、産業界においても処遇の向上ではなく、ビジョンを見せることで社員のモチベーションを高める手法が受け入れられつつあるのです。

 目の前の利用者への具体的支援が、どの様な社会貢献に繋がっているのか、この仕事が如何に社会的使命や責任を全うできる素晴らしい仕事であるのか、そのビジョンを示すことなくして福祉専門職の育成は出来ないと自身は考えます。

 また、福祉専門職の育成では、原理原則論や理想・理念を伝えることが不可欠です。人員配置等の多くの制約ある中、理想の福祉実践が出来ず悩んでいる職員が多い中、敢えて、原理原則論と理想を語る必要があるのではないかと私は考えています。「出来ていない」現在を基準に、理想を諦めるのではなく、今「出来ていなくとも」いつかは実現させるための前向きな実践を後押しすることが重要です。恥ずかしいのは、今「出来ていない」ことではありません。今「出来ていない」ことに開き直ったり、居直ったりすることが、専門職として最も恥ずかしい行為であると言えるのではないでしょうか。「出来ていない」現実から、僅かであっても日々改善を図り、前に向かって取り組んでいく姿勢が必要です。それを強化するためにも、経営陣や人材育成担当者には、信念を持って、弛み無く理想を語り続け、その実践を後押しする姿勢が求められています。専門職としての価値・理念や法人理念を、しっかりと理解した上で、それを現場の職員に分かりやすく理解できるよう再言語化することが求められているのです。

 他者が取り組んでいない新しいことに取り組む時、容易には実現し得ない夢や理想に近づく実践時に、人の行動はより尊いものになると認識しています。斯くの如き職場風土でこそ、人は育つし、その職場に誇りを持って留まり続けるものであると認識しているところです。

※1 厚生労働省
「福祉・介護人材確保関係主管課長会議 資料」
(参考資料「介護福祉士等現況把握調査の結果について」)
平成20年12月25日
 福祉・介護分野で働こうと決めた理由
福祉・介護分野の仕事を辞めた理由について見ると、社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士のいずれも「給与等の労働条件が悪いため」の割合が最も高かった。この他、社会福祉士・介護福祉士については「仕事の内容がきついため」、精神保健福祉士については「職員間の人間関係が良くないため」の割合も多い。

厚生労働省
「福祉・介護人材確保関係主管課長会議 資料」(参考資料「福祉・介護サービス従事者の現状(データ集)」「介護職員の定着の状況等」)
平成20年12月25日
 介護職員の現在の仕事や勤務先を選んだ理由
働きがいのある仕事だと思ったから64.6%・自分の能力・個性・資格が生かせると思ったから36.8%・通勤が便利だから35.2%
介護職員の現在の仕事や勤務先を選んだ理由は、「働きがいのある仕事だと思ったから」、「自分の能
力・個性・資格が生かせると思ったから」が多くなっており、「給与」や「労働条件」の割合よりも、本人の仕事内容に対する意欲の割合が高くなっている。
 介護福祉士の転職理由
仕事にやりがいがない20.5%・職場の人間関係17.1%・給与が低い15.0%・その他30.2%
介護福祉士の転職理由は「仕事にやりがいがない」、「職場の人間関係」、「給与が低い」の順で多くなっている。


※2 田中久夫氏『改訂福祉職員研修テキスト 管理者編』全国社会福祉協議会P.82 2008年5月

※3 姜尚中氏『リーダーは半歩前を歩け』集英社新書P. 56-57 2009年9月




Date 2011/12/05
中島康晴 特定非営利活動法人 地域の絆 代表理事
1973年10月6日生まれ。大学では、八木晃介先生(花園大学教授・元毎日新聞記者)の下、社会学を中心に社会福祉学を学ぶ。巷で言われる「常識」「普通」に対しては、いつも猜疑心を持っている。1億2千万人の客観性などあり得ない事実を鑑みると、「普通」や「常識」は誰にとってのそれであるのか、常に思いを巡らせておく必要性を感じる。いわゆる少数派の側から常に社会を捉え、社会の変化を促すことが、実は誰もが自分らしく安心して暮らせる社会の構築に繋がると信じている。
主な職歴は、デイサービスセンター生活相談員、老人保健施設介護職リーダー、デイサービス・グループホーム管理者。福祉専門職がまちづくりに関与していく実践の必要性を感じ、2006年2月20日特定非営利活動法人地域の絆を設立。学生時代に参加した市民運動「市民の絆」の名前をヒントに命名。
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