例えば、決算書の具体的な読み方や会計処理の方法を理解する前に、会計学の大きな枠組みを先に理解した方が効率の良いことは想像に難しくありませんし、巷のビジネス書籍等でもよく謳われていることであります。つまり、原理原則論や本質論と言った大きな枠組みを理解した上で、各論を理解しなければ非常に非効率であるばかりか、時に間違った実践にそれが繋がってしまうことを忌避してのことではないでしょうか。その他報連相の在り方においても、「『森』→『木』→『枝葉』の順で話をする」とあり、「『枝葉』から話をはじめるのではなく、まずは全体像(森)を話すことで相手のベクトルをこちらに向け、話のポイント(木)を説明して、続いて詳細説明(枝葉)に入るのです。これができると、思った以上にスムーズに報告(連絡、相談)でき」るとされています※1。つまり、他者に対する説明の仕方においても同様のことが言われているようです。
当法人における教育の際にも、全く同様のことを指導者に伝えるようにしています。つまり、それぞれの具体的実践を指導する前に、それぞれの実践における抑々の目的とは何かを必ず説明するように伝えるのです。例えて言えば、利用者の送迎における個別具体的な業務内容を説明する前に、「送迎」をする際の目的とは何かを先に説明するといった感じでしょうか。
いみじくも「本質」から逸れてしまいましたが、物事を議論する際にも、この本質論無くして、十分な議論が成されているとは言い難いことは推して知るべしと思っています。さて、昨今急速に国民的議論が展開されている憲法について申し述べますが、憲法における抑々の本質論が見えにくいと自身は認識しています。憲法9条を始め、96条の改正がよく取り沙汰されているようですが、そもそも憲法とは何かといった根本的共通理解を抜きにして、各論から入ることに大きな抵抗感を有しています。一般的に、近代憲法は、立憲主義の立場に立ったものであると認識されています。朝日新聞の社説から以下引用しておきます。
「そもそも、憲法とは何か。
憲法学のイロハで言えば、権力に勝手なことをさせないよう縛りをかける最高法規だ。この『立憲主義』こそ、近代憲法の本質である。
明治の伊藤博文は、天皇主権の大日本帝国憲法の制定にあたってでさえ、『憲法を設くる趣旨は第一、君権を制限し、第二、臣民の権利を保全することにある』と喝破している。
こうした考え方は、もちろん今日(こんにち)にも引き継がれている。
憲法99条にはこうある。『天皇又(また)は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ』。『国民』とは書かれていないのだ。
立憲主義は、国王から市民が権利を勝ち取ってきた近代の西欧社会が築いた原理だ。これを守るため、各国はさまざまなやり方で憲法改正に高いハードルを設けている」※2。まさに、「一般の法律は国家が国民を制限するものであるのに対して、憲法は国民が国家を縛るものであり、両者ではベクトルが逆である」ことこそが憲法の本質であると言えます※3。その本質論によって立てば、権力を縛るべき憲法を、その権力の中枢にいる側が競って改変する光景は稚拙に思えてなりません。物事はやはり、原理原則論や本質論を理解した上で眺めた方が、より正確無比にその「本質」を捉えることが出来るものです。
そして、ソーシャルワーカーとして、ソーシャルワークの本質から本件について付言するならば、それは、「自民党憲法改正草案」の第13条にあるのではないでしょうか。憲法13条は現行憲法においては、個人の幸福追求権が謳われている条文です。それを、本草案では、「個人として尊重される」の「個人」を「人」としてという包括概念に置き換えています。条文の名称も「人としての尊重等」となっています。これは個人主義を認めない条文になっていると言えるのではないでしょうか。憲法13条は、ソーシャルワーカー(社会福祉士)のmissionであると言われている権利擁護と密接な関係にある条文であると言われています。この13条の改悪はソーシャルワークの倫理と理論に反するものです。であればこそ、当法人の法人理念においても、「憲法第13条・第25条を遵守する」と謳っているわけです。ソーシャルワーカーとして、その本質論から言えば、この13条の改悪案にこそ大きく否と叫ぶべきでしょう。
実は、私は護憲論者ではありません。時代の要請に従って変更すべきところがあっても宜しいと思っています。しかしながら、憲法の本質である永久平和主義・国民主権・基本的人権の尊重といった基本原則は変えるべきではありません。そこを改めれば、憲法の本質そのものが改変されるからです。私たちの権利を守っている憲法が、私たちを排他・排斥するものに改悪されぬ様、一ソーシャルワーカーとして市井を注視して参りたいと思っております。
※1 河野英太郎氏『99%の人がしていないたった1%の仕事のコツ』ディスカバー P.17 2013年3月
※2 「社説 憲法を考える 変えていいこと、ならぬこと」『朝日新聞』2013年5月3日
※3 中島岳志氏「(わたしの紙面批評)「憲法」企画・特集」『朝日新聞』2013年5月14日