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中島康晴

地域の絆 代表理事 中島康晴

曖昧模糊と化す安全の定義

2013/10/16 00:55:34  社会全般


 危険が無く安心できることを「安全」と言う。子どもでも分かり得ることを敢えて冒頭で叙述したくなるほど、我が国における「安全」の定義が分からなくなってきました。

 自身の感覚がどうかしているのかと却って不安を抱いた出来事が、岐阜県可児市の小中学校のパンにクロバネキノコバエが付着していた「問題」でした。まず、自身は、なぜこの出来事が、ここまで大きな「問題」としてマスコミに取り上げられるのかが理解出来ませんでした。小中学校時の私の給食体験では、野菜に青虫がついていることは決して珍しくは無く、先生からも「虫がついていると言うことは、農薬が効いていない証拠なので『安全』な食べ物である証拠だ」と説明を受けた記憶があります。その様な経験の持ち主からすれば、なぜにこんなに大騒ぎになるのか、といった心証を抱いてしまうのでした。

 しかし、11日付の産経新聞の記事に目を留めた際、これは自身だけが疑問視しているものでは無い事に改めて気付かされ多少の安堵を感じた次第です。本紙によれば、可児市の小中学校給食「問題」において、「児童生徒や保護者から苦情はなかったが、対応を知った市議が市議会委員会で問題視した。市教委は『指導は間違いだった』と認め、早急にマニュアルを見直すとしている」ことに対する「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏の問題提議のコメントを次の様に紹介しています。
「この問題は食品の安全性や廃棄の是非、世界の食料事情などを子供たちに考えさせる絶好の内容。『健康に影響がないと判断した場合は食べる』とのマニュアルも極めて妥当なもの」。
「もちろん、ハエを付着させたパンの納入業者に問題がある。しかし、この事故を業者やマニュアルの責任にして終わらせるべきだろうか」。
「食べられる食品を嫌だといって拒否することができるのは、今の豊かな日本だから許されること。それでいいのか。学校給食は教育の一環でもあり、世界の食料事情も伝え、子供たちと議論してほしい」※1。

 ヨーロッパにせよ、オセアニア、アジアにせよ、諸外国に訪れた際にハエを一匹も見なかったことはありませんでした。むしろ、我が国の生活よりもより身近にいることが多く、食事中もハエが飛んでいることは珍しくは無かったと記憶しています。そこに違和感を持って、ハエを手で払い除けてばかりいるのは私を含めた日本人だけでした。

 一方で、と私は感慨深く思います。巷に溢れる合成洗剤や無用な消毒剤・科学物質・電磁波等のことはどの様に考えるのだろうかと。これらは、如上のコバエに比較して安全と言い得るのでしょうか。前出の唐木氏の述べるようにパンに付着したコバエは「安全上、問題ない」と断言することは支持できます。しかしながら、合成洗剤・消毒剤・化学物質・電磁波等は真に「安全上、問題ない」とは断言できぬものです。安全が証明できないものは、危険と認識する「予防原則」の考えが定着していない我が国においては、致し方の無いことかも知れませんが、少なくとも安全証明は成されていないのが現状です。言わずもがな、他方「環境に影響ない」や「健康に影響ない」といった常套句が報じられてきた放射能汚染問題などはその最たるものでは無いでしょうか。「完全にブロックされている」「状況はコントロールされている」とは、まさにデマそのものであり、希望的観測であり、データーを追求すればそれが欺瞞であることは明らかでしょう。

 如上の様に「安全」について見てくれば、概ね次のような纏めを発することが出来るのではないかと思われます。自然に必然的にあるものを遠ざけてそれを「安全」と定義する傾向がある。また非自然なるものに“守られる”ことに「安全」を感じる向きもある。そこから、人々は、近視眼的で「煩わしくない」「熟慮の必要ない」ことを「安全」視する傾向がある。それに加えて、その事象が有するイメージにも大きく左右されている。このイメージは、資本主義社会の力学的必然の中から創造された偏向した情報に基づくのでしょう。イメージは飽く迄も、社会的に創造されたものであり、「黒猫は不吉である」というレベルのお話であって、理論やデーターとは大よそ関連の無い領域の産物であることは言うまでもありますまい。

 また、先進国内における安全とは、全ての人々にとってのもので無ければ成らないハズです。よって、福島第一原発の作業員の方々や、原発の周辺住民、強い電磁波の発生する建造物の周辺住民、沖縄の基地周辺の住民、全ての人々の安全を考えてのもので無ければ成らないハズです。

 斯様に欺瞞的なアンゼンが蔓延る現下の社会において、給食のコバエ事件で「安全」を指摘する報道に何ら説得力を感じないばかりか、強い違和感を覚えたのは以上の理由からでした。かてて加えて、最後にもう一言申し添えておきます。斯く如き教育現場は、子ども達のその後を、安全ではなく危険に晒すことに帰結するのではあるまいか。


※1 平沢裕子「『給食パンにハエ』除いて食べるよう指導… 食品廃棄の是非など考える好機」『産経新聞』2013年10月11日



Date 2013/10/16
中島康晴 特定非営利活動法人 地域の絆 代表理事
1973年10月6日生まれ。大学では、八木晃介先生(花園大学教授・元毎日新聞記者)の下、社会学を中心に社会福祉学を学ぶ。巷で言われる「常識」「普通」に対しては、いつも猜疑心を持っている。1億2千万人の客観性などあり得ない事実を鑑みると、「普通」や「常識」は誰にとってのそれであるのか、常に思いを巡らせておく必要性を感じる。いわゆる少数派の側から常に社会を捉え、社会の変化を促すことが、実は誰もが自分らしく安心して暮らせる社会の構築に繋がると信じている。
主な職歴は、デイサービスセンター生活相談員、老人保健施設介護職リーダー、デイサービス・グループホーム管理者。福祉専門職がまちづくりに関与していく実践の必要性を感じ、2006年2月20日特定非営利活動法人地域の絆を設立。学生時代に参加した市民運動「市民の絆」の名前をヒントに命名。
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