地域密着型サービスの理念や、その実践のための「準備作業」について、前回まで述べてきました。今回からは、その具体的な実践過程についてお話したいと思います。
「地域の絆」では、コミュニティケアを「地域の要援護者を地域住民で支え合う行為である」と定義している旨をお話ししました。それが、地域密着型サービス運営の目的であると。しかしながら、福祉専門職としての目的はもっと先にありまして、最終的には「誰もが自分らしく安心して暮らせる地域社会の確立」にあると自身は考えております。このような長期目標の存在を熟慮しながら、次回にわたって、地域密着・地域交流について考えます。
また、その様な地域社会の確立のためには、福祉専門職がまちづくりや、地域住民の主体形成に関わっていくコミュニティワークの視点も欠かせません。そこで、最も重要になってくるのが地域密着や地域交流の視点であります。事業所と地域住民の関係性を醸成し、信頼関係を構築する取り組みが不可欠になるわけです。「地域の絆」では、それを図1のように捉えております。
以下、「地域の絆」における具体的実践例をご紹介します。
まず、「挨拶活動」ですが、地域支援活動で大切な視点は「出来るところから始める」です。私たちは利用者から地域へと対象を変えた時、非常に高いハードルを課しているのではないかと思います。大きなイベントを開催したり、大きなシステムを構築したり等。その様に構えてしまうと結局は、何も出来ない状況に終わってしまうのではないでしょうか?なので、私たちは先ず出来ることとして、開設前から挨拶運動を実践しています。地域住民と道ですれ違った時や、センター内から地域住民を見かけた時に、こちらから積極的に挨拶を交わします。その時に「こんにちは」「おはようございます」にもう一言、「お買い物の帰りですか?」「今日はどちらへ行かれるんですか?」「かわいいワンちゃんですね」などど、状況に応じた日常会話を付け加えます。そうすることで会話が広がり、お互いの事をより深く認識し合うようになります。そして、この日常生活会話を継続していくことで、顔や名前、延いては人柄の理解が促進され、信頼関係が構築されていきます。すると今度は、会話の内容も「安易に他人に話すことの出来ないより深い内容」へと変容してきます。「ちょっと聞いてみるんだけど、私の身内が認知症みたいなのよ。●●するんだけど、これって認知症かしら?」といった会話が聞かれる様になります。
私たちが知りたいのは、地域住民が持つニーズ(困っていることや、やりたい事)です。対人援助でも見て取れるように、ニーズに接近した会話は、インテーク(初回面接)時等にはなかなか行うことはできません。やはり、専門職と利用者との信頼関係が醸成されて始めて成されるものです。地域住民との信頼関係も同じで、まずは日常生活会話を繰り返し、継続して行うことでしか成し得ません。そのためにも挨拶(日常生活会話)の継続性は欠かせません(図2)。大切なのは、全職員がその重要性を理解し、行動することです。
「事業所空間の開放」については、前号で述べた通りです。地域住民が来所する余剰空間がなければ、日常的・継続的な来所は望みにくい旨話しましたが、実は空間があるだけでは地域住民の来所は望めないと考えます。よく、特別養護老人ホームでは大きな喫茶コーナーがあるところを見かけますが、地域住民がよく来られている所と、閑古鳥が鳴いていて非常にもったいないなと感じる所があります。様々な理由が考えられますが、問題は明らかに、ハード(空間)にあるのではなくそのソフト(運用の仕方)にあります。地域住民が気軽に来所しやすいような取り組みや、仕掛けを積極的に行っているかどうか?その結果、来所しやすい雰囲気を事業所全体が有しているか否か?この辺りが最も重要で、そのための取り組みが、「相談援助事業」や「ボランティア制度の活用」、「ペットボトルキャップ・プラスチィックトレーの回収」、「地域交流事業」になろうかと思います。
相談援助事業は、「社会福祉士事務所」や「福祉よろず相談室」の看板を掲げ、高齢者に限らず、児童・障害者分野のあらゆる福祉相談窓口を設けています。地域住民が、身近な場所で、先ずは、何でも相談できるそんな場所を目指してのことです。また、福祉専門職が持つ知識や、技術を地域資源と化し、地域へ還元する取り組みでもあります。相談料は取っていませんので、主な役割はインテーク程度で、適切な機関に確実に繋いでいくこと(「ワンストップ相談」)を心がけております。相談件数は、月に2〜3件程度ですが、偏りなく定期的に様々な相談が上がってきます。中には、専門職からの相談もあり、専門職間のネットワーク作りの一助にもなっています。
ペットボトルキャップの回収は、社会福祉協議会がされているものをお手伝いさせていただく形で、身近な場所での回収場を担っており、プラスチィックトレーに関しては、福山市内に本社のある「エフピコ」という企業が実施されている「使用済み食品トレーの回収」に則って行っております。トレーの回収で得た資金は、「地域交流事業」(年4回の子どもの健全育成に関するイベントの運営)に割り当てることにしています。キャップもトレーも週に3〜4名程度の地域住民が持参してくださる様になっています。また、トレーは非常にかさ張り保管場所の確保が難しいことと、保管場所がもっと分かりやすく決まっていた方が良いとの地域住民の意向から、地域に住んでいらっしゃる大工さんが事態を見兼ねて、回収箱を製作してくださりました(写真1)。
上記の実践が示しているのは、「何もしないで、待っていても」地域密着・地域交流は促進されない事実ではないでしょうか。次回では、「ボランティア制度の活用」と「地域交流事業」の取り組みについてご紹介します。
第45回衆院選において、政権交代が実現した。各国のメディアを始め、日本のメディアの反応は例えば、「『09年8月30日』は後世、歴史年表に太い活字で特筆されるだろう。日本の民主主義の前進が、衝撃的な数字で示された」(『朝日新聞』2009.8.31.政治エディター根本清樹氏)とあるように、非常に「衝撃的」な取り扱いとなっている。まるで「改革」でもなされたような反応である。
しかしながら、福祉専門職の立場から静観すれば、自民党も、民主党も差ほど大きな政策の変化は見受けられない。ましてや、社会福祉実践に欠かせない、社会構成の視点、つまり、これから100年後にどのような社会を構成していくべきかといった社会的な立ち位置に、両党の違いを見つけることは非常に難しい(そもそも、100年先の社会構成のビジョンを打ち出している政党や政治家は皆無かもしれない。あくまで、推察の範疇ではあるが)。
その点においては、本政権交代は、「改革」でも「衝撃的」でもないと観望できる。
ただし、同じ思想の持ち主であったとしても、同じ人間が長らく権限を行使するのではなく、違う人間が権限を行使する方が、癒着や澱みを払拭する効果をもたらす。その点は、大いに期待したい。
私としては、財政再建(人口減少傾向の真っただ中にある我が国にどれほどの期待ができるのか?)に捉われ過ぎることなく、財布の中身は多少「寒く」とも、社会の中で、誰もが排他・排斥されることなく、自分らしく安心して暮らせる社会の構築を是非とも実現していただきたいと願うばかりである。