2009/11/29 12:00:00
地域密着型サービス
地域密着型サービス、特に小規模多機能型居宅介護では、運営上の細かな規制や制約が非常に少ないのがその特徴かと思われます。中等度から重度の生活課題を抱えていらっしゃる方を、住み慣れた地域や在宅で支えていくためには臨機応変なケア・サービスの在り方が求められるのは自明のことですから、これは当然の帰結とも言えます。違った表現をすれば、それだけ事業所側に運営の裁量権が委ねられていることになります。
だからこそ、事業所ごとに良くも悪くも「格差」が生じることになります。地域密着型サービスが創設されてもう直ぐ3年になりますが、ケア・サービスの在り方、地域との関係性、運営の仕方に事業所ごとの特色が出てきている様に見受けられます。中でも、独自性が強いのが運営推進会議の在り方ではないでしょうか?
まず、運営推進会議の在り方を考えるに当たって、制度上の考えに触れておく必要があります。「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」(厚生労働省令 第34号)や厚労省から過去に出された「Q&A」の要旨をまとめると図1のようになります。たったこれだけですが、この中から、厚生労働省が意図する事柄や、私たちがこの会議を有効に運営していく方策を見いだすことが出来ます。密室でのケアに陥りやすいグループホームと小規模多機能型居宅介護に第三者の評価の目を定期的に入れ、ケア・サービスの質の向上を狙っているのは言うまでもありませんが、中でも私は、「構成員」の中身に注目しています。利用者の権利擁護が謳われて久しい今日利用者・家族が参加するのは自明のことです。そこに、地域住民の代表者や、行政職員、地域包括支援センター職員が入っていることに私は様々な可能性と意図を感じています。
まず地域住民の代表者ですが、厚労省のQ&Aでは、「町内会役員、民生委員、老人クラブの代表者等が考えられる」と表現されています。これらの人々が会議に参加する意義や、そのことで望めるべき展望とは、①地域住民が事業所の運営に参画すること②事業所・地域包括支援センター・行政が地域住民のニーズを把握すること③事業所・地域包括支援センター・行政と地域住民が協働でまちづくりを展開すること、が挙げられます。
原則として、日常生活圏域内で完結するサービス提供が基本となる地域密着型サービスにおいて、その利用者は地域住民であり、運営推進会議に地域住民の代表者が参加することは、将来自分や家族が利用するであろう身近な事業所を自らの手で育て、また不備があれば行政に指導依頼を行う住民自治に繋がるのではないかと私は期待しています。
一方、地域包括支援センターにとってもこの会議に参加する意義はあろうと思います。平均して2~3中学校区を対象範囲として活動する地域包括支援センターが、3~6人程度の職員配置で、直接的に地域支援を行うことが困難な現状を鑑みれば、センター管内にある地域密着型サービスを上手くコーディネートし、間接的な地域支援を実践していく視点も必要ではないかと考えるのです(図2)。また、地域密着型サービスのネットワークを築くことも、公益色の強い地域包括支援センターにその期待が寄せられます。
以上のように運営推進会議のあり方を考えていくと、その目的は大きく2つあるのではないかと考えています。①外部の視点を入れ、チェック機能を働かせケア・サービスの向上に繋げる②地域のニーズを把握し、それに応え得る方策を検討する。地域の絆の各事業所では、この2つを常に1:1の配分で会議の運営を行います。以下地域の絆での取り組みと、そこから見える運営推進会議の課題について提言させてもらいます。
構成員については、利用者・利用者の家族・市職員・地域包括支援センター職員・近隣事業所(居宅介護支援事業所や介護保険施設等)の職員・市社会福祉協議会職員・福祉系専門学校講師・自治会長・民生委員・老人クラブ会長・近隣住民といった構成になっています。中でも、小規模多機能型居宅介護の対象利用者像を考えると、利用者の参加が難しいことが課題となっています。他の参加者の話の内容を理解し、ご発言できる方が非常に少なく、参加されることは稀にしかありません。であるならば、利用者の権利擁護を担保する別の機会を設けるか、利用者が参加できる会議の体制を整えることが必要だと認識しています。権利擁護とは、利用者の主体性・自発性を引き出し、その人らしい生活を支援することであると私は考えています。であればこそ、自分たちが利用する事業所の運営に主体的に参加する機会を保障する義務が私たちにはあります。利用者が運営推進会議に参加することの意義をもっと大切に考えたいものです。
また、地域住民の代表者について、必ずしも自治会役員の方という捉え方はしておりません。役員の方の考えが必ずしも地域住民の総意だとは考えていないからです。社会福祉協議会の職員さんに参加いただいているのは、法人の理念と社会福祉協議会の理念が一致するからです。いずれにしても、地域住民をはじめ、地域包括支援センターや社会福祉協議会、他事業所に対して、参加をお願いする依頼文を持参し、事業所の理念をしっかりと説明させていただくことが必要でした。地域住民に対しては住民説明会の場で、事業所に対しては40分程度のプレゼンテーションをさせてもらって、その後参加いただいた所もあります。地域密着型サービスの職員には今後、強く説明能力が求められることでしょう。交渉事の基本は、データー・理論・情動性であると私は自覚しています。中でも「情動性」である心意気や思いがなければ、他者の心を動かすことは出来ないでしょう。
次回は、会議の実際についてお話したいと思います。
図1 厚生労働省令にみる運営推進会議
図2 地域包括支援センターと地域密着型サービスの関係
なぜ、今地域の絆が求められているのでしょうか?それは、持続可能な循環型社会が求められ始めている現状と、大いに整合性があるようです。
本ブログでもお話してきた様に、社会の構造や関係性の中で生きている私たちにとって、「私益」と「公益」は本来相互作用の関係にあるのですが、現代社会においてそれは潜在化され、そうでは無いかの如く「操作」されてきたように見受けられます。なぜ、「操作」する必要があるのかは、然程深い考察を必要とせずとも、察しがつきます。経済至上主義・競争原理主義社会においては、「私益」と「公益」を分別することがその礎となるからでしょう。いわゆる、勝ち組と負け組を作る必要性があったからではないでしょうか。
しかし、近頃、社会に格差があることは実は、全国民にとって良くないことではないかと、理解され始めております。そこで、注目を集めているのが、持続可能な循環型社会です。
そもそも、真に「豊かな」社会とは、循環型の社会そのものの事を言うようです。循環とは、自分たちの行いが、巡り巡って、いずれ、子や孫の代に「返ってくる」ことを意味します。自明の理として、「私益」と「公益」は循環しているのです。その「返ってくる」時間差に、利益を掠め取ることができた人を勝ち組と捉えても差し支えないのかも知れませんね。
「公益」と「私益」を循環させるそんな絆をつくっていきたい!それこそが、誰もが自分らしく安心して暮らせる社会構築への一里塚となるのかも知れません。地域の絆は、持続可能な循環型社会を構築する推進器となるのでしょうか?そうあって欲しいものです。
若輩浅学の私のコメントでは物足りませんので、最近拝読した文献より、引用させて頂きます。
「因縁とは、因果関係と縁である。すべての物事や存在はつながっていて、互いに因であり果である。個人の言動は全て「因」となり、必ず未来に何らかの影響を与える。何より、循環して自分に帰ってくる。その反対が直線的な「戻って来ない、循環しない」時間で、戻って来ないから「今のうちに」利益をかすめ取っておけば「勝ち」という考えになる。そこに、取ってしまえる者(勝つ者)と、取ってしまえなかった者(負けた者)が生まれる。これが、近代の「さもしさ」なのだ」(『週刊金曜日』2009.9.11.(766号)「風速計」「未来のための江戸学」田中優子氏)。
数日前、深夜番組で、フィギュアスケート・高橋大輔選手の復活に至るドキュメンタリーが報じられていました。
下半身を負傷し、再起するまで、厳しいリハビリをこなし、恐怖を克服していくその姿に、同じ人間として強い感動を覚えました。
しかし、私が強く心を留めたことは、リハビリを通して、以前よりも下半身の柔軟性を得ることができ、今まで以上のしなやかな動作を手に入れたこと。そのことに対して、高橋氏自身が「怪我をして良かった」と話されたことでした。
私は「ピンチはチャンス」という言葉を常に、抱いて仕事をしていますし、職員にもそのように伝えております。それは、ピンチをチャンスに変える視点こそが、人間を強く成長させると信じているからです。また、ピンチをチャンスに変えることが出来るか否かに、人間としての、一つの能力の、真価が問われていると考えるのです。ピンチをチャンスに変えることが出来る人間こそが、プロフェッショナルであると。
自身の信念を持って、ピンチに立ち向かっていく時にこそ、得られるものは大きいはずです。ピンチは、人を必ず成長に導きます。ただし、そのためには、自身に強い信念がなければ、それは単なるピンチでしかありません。
鳩山由紀夫首相が、所信表明演説(2009年10月26日)で「地域の絆」という言葉を用いて、これからの社会の在り方について提言されました。「これまで日本の社会を支えてきた地域の「きずな」が、今やずたずたに切り裂かれつつあるのです。(中略)かつての「誰もが誰もを知っている」という地縁・血縁型の地域共同体は、もはや失われつつあります。(中略)「あのおじいさんは、一見偏屈そうだけど、ボランティアになると笑顔がすてきなんだ」とか「あのブラジル人は、無口だけど、ホントはやさしくて子どもにサッカー教えるのもうまいんだよ」とかいった、それぞれの価値を共有することでつながっていく、新しい「きずな」をつくりたいと考えています」。
最近、関西方面に訪れた際、左のようなポスターを目に掛けました。
また、「社会の所得格差が大きくなると、貧困層だけでなく中間層や高所得層でも死亡する危険性が高まることが、山梨大の近藤尚己助教らの大規模なデータ分析で分かった。
社会のきずなが薄れ、ストレスが高まるのが原因らしい。英医師会誌に発表した」(2009年11月21日読売新聞)。
今社会には地域の絆が、強く求められています。私たち地域の絆は、誰もが、自分らしく安心して生きていける社会の構築を目指して、2006年2月に設立致しました。同じ人間として、考え方の違いを越えることを決して諦めることなく、多くの方々と対話を続け、大きな絆をつくることで、そのような社会の構築ができればと考え、取り組む毎日です。
人類が恐竜時代よりも長期にわたって、地球上で生き延びるためには、地域の中で、誰もが安心して暮らせる社会を構築し、各地で地域の絆を創造し、それを全世界に広げていくこと。これしかないと、自身は考えています。
そのような誇りを抱いて、私たちは、更なる邁進をして参りたいと思っております。何よりも、多くの方々との強い絆を大切に。
2009/11/12 12:00:00
地域密着型サービス 事業所が地域密着・交流することの最終目的は、誰もが自分らしく安心して暮らせる地域づくりにあると考えます。無論、そこに至るまでにはいくつかの段階を経なければなりません。例えば―――①職員と地域住民の親密度の向上、②地域住民のニーズの把握、③事業所が地域(貢献)活動を実施、④地域住民と事業所の信頼関係の構築、⑤地域住民と事業所の協働関係の構築。これらの段階については、実践レベルでまだまだ方法論が確立していません。一つだけ明らかなことは、段階を漸次踏んで行かねば、一足飛びに最終段階到達は出来ないということでしょう。
であるからこそ、地域の絆では①を達成するために「挨拶運動」を実践してきました。心理学の領域でも明らかなように、挨拶や日常生活会話をする親密度のレベルに達しない限り、それ以上の親密な関係を築くことは出来ません(図1-1・2)。しかしながら、挨拶レベルの会話であれば、事業所はさほど労力を負担せずとも、職員ひとり一人が意識変革さえすれば即実践可能なものです。レベル2までは、いともたやすく実践が可能であると言えます。地域の絆ではまず、レベル2の地域住民との親密度を構築してきました。これは、何かを実践することを目的に親密になるのではなく、親密になること自体を目的にした取り組みでもあります。まずは、一人の人として住民と親密な関係にならねば、人と人とが何かを協働することには決して繋がらないからです。
そして、その上位レベルの親密度が構築されるにつれて、②の実践を試みました。これからお伝えするのは、地域の絆が運営する地域福祉センター仁伍で実践した方法ですが、どの事業所でも実践可能なやり方だと思いますので、是非参考にしていただければと思っています。小規模多機能の職員が、ケア・業務に追われる中で、実践可能な方法を考え取り組んだものです。職員が地域住民に聞き取りを行うのですが、その際のルールを以下お示しします――
①期間中(3週間という期限を設けました)出勤した職員は1日当たり、頻度1回以上、時間5分以上、地域住民と日常生活会話を行う
※利用者と散歩中や、送迎や訪問時、出退勤時に実施。
②普段の日常生活会話とは違う、何らかの意図をもった会話(地域住民のニーズを引き出す会話)であり、広義の生活場面面接であると位置づける。
③「ニーズを引き出す会話」と言われても具体的に理解しにくいため、(地域住民が)「困っていること」「望んでいること」を聞き出すように職員に指導する。ただし、「困っていること」「望んでいること」を直接聞かずに、日常会話の中から「真意」を聞き取ることをルールとする。※余程関係性が出来ていないと、直接問われても地域住民は困惑する。
④実施した職員は、記録用紙に会話の内容を記載する。ミーティング用のホワイトボードに用紙を貼付し、その日の情報を全職員で共有する。※共有された情報を、次の会話に活かしていく。
⑤聞き取り調査から、上がってきたものをKJ法でカテゴリー化する。
一日5分程度の会話と、その期間を3週間に限定することで実践が可能となり、図2の様な結果を出すことが出来ました(3週間で約30回の会話を記録)。
これらの内、私たちが顕著に受け止めたのが、①町内の交流②世代間の交流③文化の継承と④自分の知識や才能を活かしたい、でした。①~③はどの地域にも共通する項目かも知れませんが、仁伍町内会(センターが所在する自治会)も地域活動参加者の年齢層を見ると、40代以下の参加率がゼロに近い状況でした。であるからこそ、地域文化や活動の伝承・継続に不安があって表出されたニーズであると考えられます。④に関しては、実は地域貢献がしたくてウズウズしているが、それが活動に結びついていないニーズがあることを示しています。これは、地域で困っていらっしゃる方(利用者)の支援を専門職が一方で引き受けながら、「支援したい」思いを抱える住民のニーズを度外視しているがために、両者のマッチングができずにいる双方にとって「もったいない」現状があることを示しています。そして、確実にコミュニティケアの土壌があることを実感出来るニーズでもあります。
それを元に、地域福祉センター仁伍では、小地域支援計画を作成しました。ですから、前号で報告させていただいた地域交流事業としてのイベントは、40代以下の年齢層を地域活動に巻き込んでいくことを主眼に置いての内容としており、具体的に子どもの健全育成に対するイベントを開催しています。子どもを対象にすることで、子どもの両親に活動に携わっていただくことを狙ってのことです。そのイベントを通して、既存の地域活動の担い手(50歳以上の方)と、40歳以下の住民とのマッチングを仕掛けるのです。本イベントを通して、40代以下のお父さんが2名、既存の地域活動に参加されるようになりました。成果はまだまだ大きくありませんが、こういった取り組みは継続性が必要だと考えています。
地域住民のニーズは、事業所と住民の親密度を上げていくプロセスで、理解されてくると思いますが、こちら側に地域住民のニーズを探ろうとする確かな意思がない限り、中々捉えにくいものだと思います。まずは、手探りの中、地域に様々な仕掛けを展開し、一方で「地域住民のニーズは何か?」を常に考え、住民の「声」に耳を欹てる必要があるのではないでしょうか。
そのことを職員に伝えるためにも、研修の一環として、地域福祉センター仁伍の取り組みを導入されてもよろしいかと思います。ちなみに、仁伍の取り組みは、半分は、職員に地域を捉える視点を持ってもらうことを目的に研修として実践したものです。
図1-1 挨拶及び日常生活会話の重要性
(法人全ての職員が、継続実践することが重要です)
図1-2 心理学の視点からの親密度レベル
(まずは、レベル2の到達を目指しましょう!)
図2 地域住民のニーズとは!?