2009年10月の所信表明演説では「地域の絆」の再構築を強く訴え、「コンクリートから人へ」という名言を残し、「いのちを守りたい」と恥ずかしげもなく言い切れるその人柄を持つ鳩山由紀夫総理大臣が2日辞意を表明しました。辞任からたった2日後の本日、菅直人氏が第94代、61人目の首相に選出されました。福祉と政治は密接な関係性があるにもかかわらず、福祉専門職は政治に無関心であり過ぎると予々思っておりました。新政権に対する期待云々を述べる前に、ここで、福祉専門職の立場から鳩山政権を総括しておく必要性があると私は思っています。それは、利用者にとって、福祉専門職にとって鳩山政権はどうであったのかという観点からなされるべきものです。
6月より子ども手当の支給が開始されています。本ブログでも叙述しましたが、手当の支給は現物支給であるべきでした。事実、各自治体は給食費や保育料を滞納している家族に対して、未納分を当該手当から納付することについて承諾書を配布したり、手当の支給口座と、給食費・保育料の振替口座を同一口座にするよう勧めているようです(『朝日新聞』2010.6.3.)。バラマキだとの批判がありますが、確かにその通りであると認識しています。ただし、国立社会保障・人口問題研究所が示す通り、経済協力開発機構(OECD)が国際比較に用いる「相対的貧困率」の内、18歳未満の子どものいる家庭に絞った「子ども貧困率」は、13.7%(03年)で、OECD加盟30カ国の平均12.4%を上回り、12番目に高いと言われています。かつ、OECD加盟国は再分配後に軒並み貧困率が改善するにもかかわらず、日本だけは悪化すると言われています(『中国新聞』2009.11.6.)。つまり、子どもや高齢者、貧困世帯等、社会的に弱い立場にある方々に対して利益の再分配が機能していないことを指しています。これをこのまま放置しておくと、格差は広がり、治安は悪化し、どれだけ福祉専門職が情熱を持って対応を試みても焼け石に水となるでしょう。その意味において、子ども手当は、支給の方法に問題はあるものの、富の再分配という視点において正しい行動であると言わざるを得ません。
鳩山氏は、知的障害者を多数雇用しながら業績を上げるチョークメーカー・日本理化学工業(神奈川県川崎市)に見学に行かれたようですが、政権下では、利用者負担が重くなったなどの声を受け、障害者自立支援法を廃止し、障害者が自立支援法は違憲であると訴えた集団訴訟においては、2013年8月までに新法を制定することで基本合意しました。細やかなことは、全くと言ってよいほど詰められていない有様ですが、大きな方向性としては間違っていないと私は思います。
介護職の処遇のあり方について、民主党のマニフェストでは、月額4万円の賃金向上を謳っていましたが、この件に関しては、その後宙に浮いたままであるようです。この辺りは、新政権では是非とも実現していただきたいと切望します。
福祉専門職からみれば、然程悪いことばかりではなかったと私は総括します。それどころか、過去の政権にくらべれば格段に良かったとも言えそうですね。今政治に求められているのは、どんな立場の人であれ、誰であっても、国民ひとり一人の命を大切にする社会の構築であり、ひとり一人の生き方の多様性を尊重する国民意識の醸成であると私は考えています。目の前の高齢者や、子どもたちの人権をないがしろにして、この国が国際社会で成熟していくとは到底思えません。社会的に弱い立場の人や、少数派の人たちを切り捨てて経済が発展しても、今の時代、国際社会からは失笑を買うだけです。それは成熟した国家とは断じて言えません。また、それは豊かな国家でもありません。貨幣的な価値を指標にした豊かさを追求すること自体が、もはや大時代なのかも知れません。
その意味において、「生活が第一」と唱えたマニフェストは正しかったと言えます。そして、手法はどうであれ、疲弊した地方を再生させようとした小沢一郎氏の実践も悪いことばかりでは決してなかったと思っています。社会福祉分野においても、地域福祉の再生が喫緊の課題であるからです。「彼が06年の代表選の演説で『まず私自身が変わらなければなりません』と言ったのは、うそではなかったと思う。雇用を守れとか、地域社会の荒廃に立ち向かおうとする民主党の姿勢には、小沢氏なりのリアリズムがあったと思う」(山口二郎氏『朝日新聞』2010.6.3.)。
大企業の経営者からみれば、大きく評価は異なるのかも知れませんが、私たち福祉専門職からみれば概してこのような評価もできるのではないかと思うのです。
多くの詰めの甘さが指摘され、非難集中の最後でしたが、「地域の絆を再生しなければならない」「人のいのちを守りたい」と国民目線でおっしゃった総理は最初で最後かもしれません。福祉専門職としては、その発言にホッとしたのも事実です。であればこそ、誠に残念な結末でした。
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